女神と地区予選4




「あぁーっ! 何でスポドリ売り切れてんだよ、わけ分かんねーよ!」

自販機の前で騒ぐ青学の学校ジャージを着たヘアバンド君。
聞こえてきた感じどうやらスポーツドリンクが買えなくて困っているようだ。

そりゃあ大会だしスポーツドリンクは大盛況だよねぇ……。

そう思うとスポドリの差し入れはちょうど良かったのかもしれない。もともと青学に差し入れする予定だったし、ここで渡しても大丈夫だろうと判断した私は、クーラーボックスの中身を確認したあと、ヘアバンドの彼に話しかけた。

「あのー……」
「あーわりぃ、邪魔してたか」
「あ、いえ……青学の方ですよね?」
「そうだけど何だ?」
「島村くんってご存知でしょうか?」
「島村……って、ああ、あの彼女連れの奴か」
「多分その人です」
「あいつなら彼女と違うところで試合見るって行っちまったぞ」

え……桃香ちゃん、私のこと完全に忘れてるよね……?

「あー……そうですか……」
「……何か用事だったか?」
「いえ、いいんです」

桃香ちゃんに置いてきぼりをくらってしまった……、迷子だと思っていたのは私だけのようだ。もはや単独行動をするべきなんだろう。そもそも桃香ちゃんにとっては既に単独行動が始まっていたのだ、たぶん。
じゃあ……と私はクーラーボックスを見下ろす。

スポドリ、あげちゃっても良いよね。


「もういいか?」
「あー、えっと……私、青学の応援に来たんです」
「はあ」
「だからあの、これよかったら貰ってください」

とヘアバンド君にクーラーボックス(中身スポドリ)を差し出す。ヘアバンド君は戸惑いつつも中身を確認して、「いいのか?」と訊いてきた。

「ええ、もちろん。もともと青学の方々への差し入れですし」
「助かったぜ。じゃあ貰うわ、ありがとな!」
「どういたしまして。それじゃあ」

お礼に対してにこりと笑みを返して、さらっと立ち去ろうとしたらヘアバンド君に腕を掴まれた。あれ、私何かしたかな。他に用事でもあるのだろうか。

「あの……?」
「な、名前を!!」
「はい?」
「名前を訊いてもいいか!? ほらっ、先輩たちに、報告しなきゃいけないしな!」

そう、ヘアバンド君に顔を真っ赤にして叫ばれた。突然どうしたんだろう。ちなみにその行動が微妙に目立っていることに彼は気づいてない模様である。
周囲の注目をうっすら浴びる中、私はあまり名前を大勢の人に知られたくなくて、ヘアバンド君に顔を近づけてささやいた。

「私の名前は、一条美里です」
「おっ、俺は青学の、あ」

「荒井? 綺麗なお嬢さんを捕まえて何してるんだい?」

「……え」

さらりと割り込んだ第三者の声に反応して声のしたほうへ振り向いたら、見覚えのある笑顔の人と、驚いてるような顔のツンツン頭の人が視界に入った。
もちろん、どちらも私は知ってる。そして多分、知られている。

「ふっ、不二先輩! 桃も!」

そう叫ぶヘアバンド君改め荒井君の声をとなりで聞きながら、私はゆっくりと微笑み、

「お久しぶりです、仙人掌のお兄さん」

と声をかけてみた。



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