目薬とパーマ君
目が、パサパサした。
ドライアイとかそういうのじゃなくて単純に目が疲れてるんだと思う。この前テニスの試合を真剣に見すぎた、とかかな。あんな小さいボールを目で追ってたらそりゃ疲れるよね、じゃあ選手って凄いな……と的はずれな見当を抱きつつ道を歩く。
入れ換わりからちょうど1週間たった今日、目薬が恋しくなった私はいま、大手ドラッグストアへと向かっていた。
目薬、目薬……っと、発見!
流石は大手ドラッグストア。棚いっぱいに目薬が並んでいる。こんなに沢山あったらどれを買おうか迷ってしまうな。うんうん悩みながら目薬コーナーを見渡すと、しゃがんで同じように悩んでいるモジャモジャのワカメっぽい頭の男の子がいることに気が付いた。
うわぁ! 頭すごいクルクルしてる。あれフワフワなのかな……!?
まれに見る高レベルなパーマまたは癖毛に見とれていたら、その男の子は「あ〜! なに買っていいか分っかんねぇ!」と叫んだあとピンク色の目薬を大量に抱えだした。
えぇぇ、両手いっぱいに目薬!? カゴ持ってこようよ!?
私は思わず心の中で突っ込んでしまった。
というより明らかに中高生と思われるそのクルクル頭君にとって、ピンクのパッケージの目薬は効果が少ないと思う。それ、明らかに女の子用の可愛らしいやつじゃないですか。
目を丸くしながら突っ立っていたら、とんでもないことに巻き込まれた。
「つーか前が見えね……あっ、うっわァァァアアア!!!!」
「へ? わぁぁぁああ!??」
ガッシャーン
と、見事に足を滑らせたクルクル頭君のお陰で大量の目薬が私に降りかかってきた。思わず真正面から目薬を受け止めてしまう。飛び散る目薬、驚く私。かつて人生の中でこんなに目薬に囲まれたことがあっただろうか、いや、ない。
「いってぇ!! ……あっ、わりィ! 大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です……なんとか」
「目薬で前見えなくてよ」
「ですよね、凄い量ですもんねこの目薬。……あ、どうぞ。拾うの手伝いますよ」
「おっ、サンキュー!」
ぶつかった縁もあり、なんとなく流れ的に散らばった目薬を拾うはめになる。
拾っているうちにクルクル頭君のことが気になってきた。
「あの、こんなに沢山の目薬……目、疲れやすいんですか?」
「あ? あー、なんつーかよく充血すんだよ。特に試合中にな」
「充血……ですか」
「だから先輩たちが買っておけって。でもこんなにあるとどれ買ったら良いか分からなくてよ」
なるほど、それで手近にあったこれを大量に手に取ったのか。
話しながら目薬を棚に戻す作業を繰り返す。
「あの……でもこれ、主に女性用ですよ?」
「え? 目薬に女性用なんてあんのか?」
「私もよく解らないんですけど、これ女の子がよく使うやつなんです。だから男の人にとっては効果が薄く感じるかも……」
「ふーん。詳しいな、アンタ」
「よく目薬のお世話になってましたから……あ、これで最後です」
「ありがとな、すぐ片付いた」
「どういたしまして」
悪かったな、と頭をかくクルクル頭君に、私は大したことないですと微笑んだ。
「あ、あと買うならそっちの黒いやつが効くと思います」
「これか?」
「はい。沢山中身が入ってるのでコスパもいいですし」
「そんなに沢山買わなくても良いってことか?」
「そういうことです」
「じゃあこれ買うわ! アドバイスありがとな!!」
「いえ、それでは、」
私はお目当ての目薬を手に立ち去ろうとしたけど、気になったことを思い出して、くるりと振り返った。
「充血、あんまり酷いなら病院行った方が良いかもしれません。気をつけて下さいね」
「おう! 分かった」
「それでは、お大事に!」
ニコッと笑って手を振って、立ち去る。
今月の運勢は笑顔を大切にと出ていたからね。昨日読んだ雑誌を思い出しながら目薬購入後、無事に家へと帰ったのだった。
*****
や……ッべ、久々に一歩下がった女子見た気ィする。学校の女子はバカみてーにギャーギャー言うし、女子なんてそんなもんだと思ってたのによ……。なんだよ、コレ。
学校に帰ってきても顔の熱が引かない。あの子の笑顔がフラッシュバックする。どうしたんだよ、と俺は頭を抱えたい気持ちを抑えつつ、着替えを終えて部室を出た。
「赤也、目薬を買うだけで随分時間がかかったな」
「わ、柳先輩! 部活始まっちゃってます?」
「大丈夫だ、弦一郎には事情を話してあるし、まだランニングしかしていない」
「そーっすか、良かった!」
「お前の事だから買うものを悩んでいた確率97%。ちゃんと買えたのか?」
「あ、はい。これ買ってきました!」
さっき例の女子のアドバイスで買った黒いパッケージの目薬を差し出す。
「ほう、まともなやつだな。てっきり的外れな物を買ってくるかと思ったが、良かったじゃないか。これなら効きやすいだろう」
柳先輩も認める目薬をあの子は選んだのか……!
驚きつつ、まじまじと目薬を見つめていたらさっきの笑顔を思い出してしまった。
頬に熱が集まるのを感じる。あれ、なんで顔熱くなってんだ、オレ??
「……っ、先輩、俺ランニング行ってくるっす!!」
なんか居たたまれなくなって俺は走り出した。
「あ、おい赤也。……今日はいやにやる気だな。もう行ってしまった……ドラッグストアで何かあった確率、100%だな」
ひたすら走る俺は、柳先輩がノートに何を書いているかなんて考える間もなかったのだった。
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