お菓子仲間
あれからすっかり暗くなった帰り道を、ブン太さんと話をしながらゆっくり並んで歩く。
さすがお兄ちゃんということもあり、歩調をこちらに合わせてくれるのでとてもありがたい。
「んーそうですねえ、やっぱりチョコレートはラ=ブリュメールが一番美味しかったです」
「え、お前あのチョコ食ったことあんの!? あれすっげー高ぇから俺食ったことねーのに!」
「知り合いの人がくれたんです」
「金持ちな知り合いだなー。俺だったら絶対一人で食っちまうぜ」
「うーん、確かにあれは一人で占領しちゃいたい味でしたねぇ」
というかそんなものをサラっとくれた跡部さんって実はお金持ちなのでは。
いや、変な地雷踏んだら嫌だし触れないでおこう。
「なぁ、どの味が一番うまかった?」
「私はキャラメルマキアートが一番好きでした。食べると中からトロッとした生キャラメルが出てくるんですよ」
「おー! 良いな、うまそう!」
「また機会があって手に入ったらブン太さんたちにも差し上げますね」
「弟たちにもくれんのか! サンキューな、楽しみにしてるぜぃ」
あまりにもブン太さんが羨ましそうに言うもんだから、出来るかどうか全く解らない約束をしてしまった。まあ、もし本当に手に入ったらあげたいな、とは思うけれども。ブン太さんはお菓子が大好きみたいで、私も甘いものが好きだからとても会話が弾む。そんなお菓子好きのブン太さんに貰ってもらえたらチョコだって本望だろう。
それにしても、ブン太さんは凄く明るい人だなぁ……会話が楽しい。
そう感心しつつ、ふと彼を見上げたら目があった。ブン太さん目、大きい。
大きな目をぱちくりさせて彼は不思議そうに呟いた。
「なんか俺、美里と話すの楽しいわ」
「あ、私も今思ってました」
思考がかぶった……!
そんなことすらおかしくて、ふふ、と笑えばブン太さんは一瞬言葉に詰まった後、そっか、と笑った。
そしてその時余所見していた私は「ぅわっ」と道に落ちていた空き缶に見事に蹴躓いて、ブン太さんの背中に突っ込んでしまった。自分のドジさを全力で呪いたい。
「すすすすすみませんブン太さん!!」
「いや別に大丈夫だけど、どうした?」
「あ、空き缶に、躓いてしまってですね……!」
「危ねーな、誰だよ道に放置した奴。ケガなかったか?」
「あ、はい、大丈夫……です。ちょっとびっくりしましたが」
「あー、とりあえずホラ」
そう言って目の前に差し出されたのは、ブン太さんの手。
「へ?」
「また、コケたとき手繋いでりゃ危なくないだろぃ?」
「たしかに! 流石お兄ちゃんですね……! じゃあ、お言葉に甘えて」
「……おう」
「ありがとうございます」
差し出された手に自分の手を重ねると、少し堅い手のひらの感覚がして、漠然と弟くんたちが言ってた言葉を思い出した。
「そう言えばブン太さんってテニスしてるんでしたっけ?」
「何で知ってんだ?」
「弟くんたちが言ってました。あと手の皮が堅いなって思って」
「よく気づくもんだなー」
私もこの前全く同じこと言われましたからね。
とはいえ「わたしの」テニスの話題は避けたいのでそっと話をそらす。
「ああ、あとブン太さんはテニス強いらしいですね」
「んー、まあ。美里が試合見る機会あったら俺の天才妙技たくさん見せてやるぜ」
「て、天才妙技ですか……! 楽しみにしてます、ブン太さんのテニス!」
天才妙技ってどんななんだろう?
見たことないから見てみたいな……!
テニスは個性が出るから見てて面白いなとこの間の大会を見て思った。だからブン太さんのテニスも見れる日が来るのが楽しみだ。
にこにこと期待を告げればブン太さんは少し言葉に詰まった後、私をじっと見つめて微笑んだ。
「ありがと……な」
「? まだ何もしてませんよ?」
「んなことねーよ」
「はあ、とりあえずどういたしましてです」
その後もボチボチと会話をしつつ歩いていると、気付いたらマンションに着いていた。
「あ、ブン太さんここで良いですよ」
「おう。そうだ、連絡先交換しね?」
「え、あ、はい」
携帯を取り出して連絡先を交換すると、ブン太さんは今日一番といってもいいような笑顔でニカッと笑った。
「これでまた美里と話せるな!」
「ええ、ブン太さんとまたお菓子の話ができるの嬉しいです。それじゃあ、送ってくださってありがとうございました!」
しっかり頭を下げると、ブン太さんにくしゃっと頭を撫でられる。それがどこか心地よくてされるがままに撫でられていたら、彼は気が済んだのか、
「じゃあまたな!」
と言って手を振って駆けていったのだった。
お菓子仲間……ゲットだぜ。
*****
正直な話、最初はミーハーじゃないかと思った。
だって女子ってそういう生き物だろぃ?
でも話してみて思ったのは、学校によくいるような女子とは違うってこと。キャーキャー言わないし落ち着いてるし、でも暗いとかそういう訳じゃなくって。
話しやすいテンション、なんだよなぁ。
手のひらに残る熱を感じながら俺は美里を思い浮かべる。
真っ先に浮かんだのは真っ直ぐ向けられた笑顔で、なぜか自然と頬が熱くなった気がした。
弟たちが最近楽しそうに「美里ねーちゃん」という名を連呼するもんだから、そもそも興味はあったわけだけれど。自分から手を差し出したり連絡先を交換したりしてしまうとは思わなかった。
あーくそっ、毎日会いたい気分だぜ……俺ん家に住んでくれねーかな、なんてな。
一人家路を急ぐ俺は、弟たちと同じことを考えていたなんて知りもしなかったのだった。
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