木漏れ日と王子
昨日ブン太さんと甘いものの話をしたせいで無性にケーキが食べたくなった。
ということで今日は日曜日だし、財布を片手に美味しいケーキを求めて私は街へ飛び出しています。
ティラミスが食べたいな……ってことはイタリア料理店とか? でも別に普通にケーキ屋さんでも大丈夫かなぁ……。
ちなみに財布の中には交通費もいるかなと思ってそれなりに入ってるけど、本とかも欲しいからなるべく程よい値段のお店を探したい。あとお昼ご飯も食べれるところがいい。
さらに条件つけるなら隠れ家みたいで自然が溢れる感じのお店が良いな……。
そんな全部叶えるのは難しそうな希望を抱きつつ、大通りから一本それた道を歩いていると次第に木が多くなってきた。しまった、道を間違えたかもしれない。足元を見ると道は確かにあるものの、コンクリート塗装ではなくなっていて、おまけに周りの景色は若干森っぽくなってきてる。いや、まだ林レベルだ。大丈夫。そもそも自然は好きだしこれはこれでいいだろう。
上を見上げると空が少し遠く、木漏れ日がキラキラと揺れていて心地が良い。絶好の散歩日和ではないか。
そんな風にしばらく歩いていくと『sogno』と書かれた看板とその方向へ一本続く小道を見つけた。
あ、なんかお店あるっぽい……。
自然に囲まれた隠れ家、まさに希望に合っている。が、何のお店かが解らない。そして看板が読めない。声に出したら何か引っかかるだろうか。
回りには誰もいないし、と思って小さく呟いてみた。
「 ソ、グノ……?」
しかし独り言ちたと思ったのに、返事が後方から返ってきてしまった。
「それは『ソーニョ』と読むんですよ、お嬢さん」
んふ、と微笑みながら丁寧な口調で彼は私に話しかけてくる。
ん? え!?
人がいたの!? と驚いて振り向くと、そこには綺麗に笑う不思議な雰囲気の天然パーマのゆるゆるヘアなお兄さんがいた。彼が太陽の方向に立っているから、まるで後光がさしているように見えて思わず目を細めてしまう。
眩しさに耐えていると天然パーマさんは続けて話しかけてきた。
「あなたもこのお店に行くんですか?」
「あ……えっと、悩んでて」
「このお店は初めてですか?」
「はい。だからどんなお店か解らなくて……」
「それで立ち止まっていたんですね。このお店は主にイタリア料理を中心に色々出してるお店ですよ」
「イタリア料理……!」
「何か、お求めのものでも?」
「ティラミスが、食べたくて。あとお昼ご飯も食べられると良いなと思っていて……」
「ではここなら好都合ですね」
「はい! 教えてくださってありがとうございます」
再び見上げると、彼は上手く木漏れ日を浴びる位置に立っていて、好青年な雰囲気とマッチしてまるでおとぎ話の1ページのようだった。
「…………」
「…………?」
うわぁと感心しながらお兄さんの方を向いたら、何故か見つめられてしまったので、思わず見つめ返す。しばらく見つめ合っているとお兄さんは目を細めて手を差し出した。
「良かったら、ご一緒しませんか?」
「……え?」
「一人で食べる食事より、貴女がいた方が楽しそうですから。お一人なら、ぜひ」
そっか、この人も一人で食べるんだ……。
私は食事は誰かと一緒の方が楽しいと思うタイプだ。なぜならいつも一人で食べているから。それに素直にこのお兄さんともっと話してみたいと思って、私はそっとその手を握った。
「じゃあ、お言葉に甘えてご一緒させていただきます」
にっこり笑うとお兄さんは眩しそう目を細めて笑った。さっきの私みたいだ。
「そういえば自己紹介もまだでしたね。僕の名前は観月はじめといいます。貴女は?」
「一条、美里です」
「一条……美里さん……!?」
そう告げると観月さんはとても驚いたような顔になって私を見たので、ああこの人もテニスをやっているのかなと漠然と思いつつ先手を打っておいた。
「昔はテニスをしてましたが今はしてません」
「……となるとやはり、貴女が ”中学女子テニス界の女神” ですか?」
「ええ、昔は。今は……リフレッシュ休暇中みたいなもので」
困ったように笑うと、観月さんに「すみません」と頭を下げられてしまった。
「あ、あの大したことないんでそんな……頭、上げてください」
「でも、無神経でした」
「そんなことないです。弱い……私が、悪いんですから」
「……」
「昔の私を知っていてくださって、ありがとうございました」
観月さんはなんとも言い難いような、逆に彼の方が傷ついているような表情をしていて、なんだか申し訳なくなってくる。少々胸の痛みを感じつつ、観月さんを見て微笑むと繋いだままだった手の力がキュッと強まった気がした。
「よろしければ、お話聞かせてください」
「大した話じゃないですよ?」
「それでも、せっかくこうして出逢ったんですから」
爽やかに笑う横顔が眩しい。観月さんはとにかく眩しい人のようだ。そしてそんなキザな台詞が似合う観月さんは普通にかっこよかったです。
「ふふ、じゃあたくさんお話しましょうね」
「そうですね。さて、行きましょうか」
2人でゆっくりと並木道をそれて、お店に向かう一本道に入る。
素敵な午後の始まりの予感がした。
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