女神と都大会1
6月の日射しが照りつける駅前。梅雨入りにも関わらず、幸い良いお天気の今日は絶好の都大会日和だと思う。
ちなみに私は今、わりと動きやすい格好で、ゆるゆると風に揺れる髪の毛をなびかせながら人を待ってます。お弁当OKタオルOK、差し入れ用のドリンクもOK、と鞄の中身を確認したところで後ろから声がかかった。
「おはよう、美里ちゃん。ごめん、待ったかな?」
「あ、おはようございます不二さん。いま来たとこですよ?」
「それなら良かった。じゃあ早速だけど行こうか」
「はい!」
待ち人の不二さんが来たので2人で並木道を歩き会場に向かう。実は今日は不二さんに都大会の観戦に誘われたのだ。
「今日何も用事とかなかった?」
「あ、大丈夫です。都大会のお誘いありがとうございました」
楽しみで寝れませんでしたよ、と言うと、「大げさだよ」とクスクス笑われてしまう。
「でも、ありがとう。僕はまた美里ちゃんと会えて嬉しいな」
「私もまた不二さんに会えて良かったです。試合に誘ってもらえて嬉しかったですし」
前の世界では誰かの部活の応援にいくなんてなかったしなぁ……。
良い経験させてもらってるな〜、と思いつつ不二さんを見ると、彼は微妙に複雑そうな笑みを浮かべていた。……お腹でも痛いのだろうか。
「……? 不二さん?」
「え、ああ……ごめんね。ちょっと考え事」
「試合の事とかですか?」
「うん、そんな感じかな。……あ、もうちょっとで着くみたいだよ」
今日の試合のことや最近の青学の話を聞きつつゆっくりと並んで歩いていく。徐々に会場に入ると、周りは木も沢山生えていて、公園ともとれそうな感じだった。緑が多いのはリフレッシュできるし嬉しい。
着いたことに安堵しつつ、木々の香りを嗅ごうとすぅっと深呼吸をしていると、後ろから何かがダダダッと駆けてくる音がした。
「一条ーーーーーーッッ!!!」
「わ……っ! も、桃くんっ!?」
「この前はマジでごめんな!!! 怪我とかなかったか!? 犯人ともめたりしなかったか!??」
駆けてきた桃くんは私の肩をつかみガクガクやってくる。私は頭ガクガクなっている。喋れぬではないか。
「う……っ、まって、だいじょうぶ、大丈夫だったから……! ……っていうか、く、苦しい……!!」
「うん、桃は取り敢えず美里ちゃんを離してあげようか」
「へ、不二先ぱ……って、あぁあ一条わりィ!!」
不二さんのお陰で何とか桃くんから解放された私が思わずよろけると、すかさず不二さんが支えてくれた。
「す……すみません不二さん……」
「全然良いよ。大丈夫、美里ちゃん?」
「ええ、何とか……」
「まったく、桃は手加減しなきゃ駄目じゃないか、相手は女の子なんだから。美里ちゃんはほら、僕にもたれ掛かってて良いからね」
「あ、ありがとうございます……」
不二さんは抱きしめるかのように私の肩に手を回して支えてくれる。少し辛かったので素直にその腕と胸を借りてもたれ掛からせてもらった。
「ホントごめんなー一条、おれつい神尾と競走しちまってよー」
「うん、そんなことだろうと思ってたし、もう謝ってもらったからいいよ。私も怪我とかなかったしね」
「そうかー?」
「じゃあ、パフェおごって桃くん。それでチャラね」
「わかった、まかせろ! これからは気を付けるな」
「まぁひったくり犯を追いかけるなんてもう二度とあってほしくないけどね……」
すると私たちの会話を聞いていた不二さんが、眉根をひそめて訝しげな声を出した。
「ひったくり犯……?」
何があったの、と聞かれたので、この前のことの顛末をお話しする。話している内に不二さんの顔は強張っていき、比例するかのように私の肩を抱く握力が強まっていってちょっと怖くなってくる。あ、これ桃くんあとで叱られるやつだ、ゴメンという視線を向けると、桃くんは青ざめた顔をしていた。
……ほんとゴメン。
話を聞き終わった不二さんは、少し怒ったような顔をして話し出した。
「桃はあとで手塚と一緒にお話ししようか。美里ちゃんは、今回は何もなくてよかったけど今度そういうことがあったら必ず、周りの人を頼ること。さっきも言ったけど美里ちゃんは女の子なんだから。わかった?」
「はい、気を付けます」
「不二センパ〜イ、部長に報告は勘弁してほしいっす……」
「だめだよ、ちゃんと反省しないと」
「……そうっすよね、一条を危険な目に合わせちまったのは事実だもんな。反省してグラウンド走るぜ……」
そんな話をしている内に、少し気分も良くなったので、落ち込んでしまった桃くんにゆるっと笑っておく。
「ごめんね、桃くん、がんばって」
「……っ」
「あれ、どうかした?」
「へ!?」
「急に顔赤くなったよ、暑い?」
「なっ、違っ、んなことねーよ!」
「ほう……桃は今日は調子でも悪いのか?」
不意に後ろから低い声が聞こえた。
「え? そんな訳ないッスよ! って乾先輩ィィイイ!?」
「うわ、わ……乾さんお久しぶりですっ!」
「久しぶりだな、一条」
「突然わいて出たね、乾」
「わいて出たとは失礼な」
「い、いつからいたんスかっ?」
「わりと最初から。一条、大丈夫だったか?」
そう言いながら乾さんは心配そうに私の頭を撫でる。
「大丈夫です。もう大分落ち着きましたし」
「なら、良かった」
ご心配お掛けしました、と乾さんに微笑むと何故か私の肩を抱く不二さんの手の力が強まった。気がした。なぜ。
「……で、乾は何か用事があったんじゃないのかい?」
「ああ、そうだ。手塚が呼んでいたぞ、不二。それともうすぐ集合時間だ」
「分かった、ありがとう、乾」
「えっ、もうそんな時間っすか!?」
「ああ、越前はまだ見当たらないようだが他の部員は揃っている」
「今からミーティングか何かなんですか?」
「まあ、そんなようなものだ」
「あ……、じゃあ私は離れたところにいますね」
部外者の私が青学のミーティングにいてはマズイだろう。しかも不動峰や立海のテニス部の方たちとも知り合いだし、そもそも確実に不審者だ。そう思い、不二さんから離れて一歩下がった。
「もう体は大丈夫?」
「はい、大丈夫そうです。ありがとうございました、不二さん」
「どういたしまして」
「じゃあ私はこの辺りをふらふらしてるので……あ、あとこれ、差し入れです」
忘れないうちにとスポーツドリンクをクーラーボックスから取り出す。いくつか袋に入れて渡すと、乾さんに相変わらずの腕力だなと言われてしまった。この腕力はこっちの『わたし』が培ったものに過ぎないのだけれど、重いものが軽々と持てるのは便利です。
「ドリンクありがとう。じゃあ、美里ちゃん、用事が済んだら探しにいくね」
「はーい、見つからないようならメールください」
「分かったよ」
「悪かったなー一条!」
「全然いいよー、桃くん」
「また後で」
「はい、また後でです乾さん」
3人ににこやかに手を振って、私はさっきよりは量の少ないドリンクinクーラーボックスを持ち直して歩き出した。
よいしょ……と。さてさて、どこにいるかな不動峰。
都大会は始まったばかりです。
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