女神と都大会2
きょろきょろと、黒い集団を探す。片手にはスポーツドリンクの差し入れを持って、大会会場を歩き回る。
あれー……中々見つからないなぁ……。
真っ黒の集団だから目立つはずなのに、と一息ついて目を伏せたら視界に黒いズボンが映った。
「もしかして……一条さん?」
「へ……?」
視線を上げるとそこには頭にタオルを巻いた黒いジャージの、
「石田くん……?」
「あ、良かった。覚えててくれたんだ」
「うん、不動峰の波動球の石田くんだよね?」
私の記憶力、なかなかいい仕事してるじゃないか。そもそもこの前の地区大会で一緒に帰ったし、よくメールするから不動峰の皆さんとはそれなりに仲が良かったりする。
「大正解、久しぶり。今日も試合観戦?」
「お久しぶりー。うん、今日は青学の不二さんに誘われたの。でもちゃんと不動峰も応援するから!」
「それは嬉しいな、ありがとう。皆に会ってくか?」
そこに揃ってると思うから、と石田くんは木立の向こうを指差した。
「お邪魔じゃなかったら行きたいけど……」
「全然大丈夫、むしろ士気が上がると思う」
「えっ、ほんと? それなら行こうかな。ちょうど不動峰の皆さんに用事があったし……ありがとうね」
ナイスタイミング石田くん、と笑いかけて、一緒に黒い集団に歩いていくと橘さんが気づいてくれた。すぐに近づいてきてくれる。
「一条も来てたのか! 久しぶりだな」
「お久しぶりです。橘さん、都大会の意気込みは?」
「勿論、優勝だ。青学にリベンジだ」
「楽しみにしてますね。ということで差し入れです!」
ドリンクが数本入ったクーラーボックスを渡すと、橘さんは嬉しそうに「ありがとう」と言ってくれた。すると神尾くんは「橘さん、俺がそれ持ちますよ」とクーラーボックスに手を出し、予想外の重さにびっくりしていた。うっかり落としそうになっているではないか。
「重っ! 一条さんこんなの持って歩いてたのかよ!?」
「あ、神尾くんおはよう。慣れれば重くないよ?」
「腕力やべーな……って、あ! そ、そういえばこの前は悪かったな……ひったくり犯のこと後で聞いたよ」
「あー、さっき桃くんにも謝られたし、全然いいよ」
「でも女の子なのに危ない目に合わせちまってよ……」
「実際は何もなかったし気にしないで」
「でも……」
「うーーん、あっ、じゃあ桃くんと一緒にパフェでもおごってくれたらチャラでどうかな?」
「そんなんでいいのか!?」
「いいよいいよ〜」
そんな会話をしていると、伊武くんも混ざってきた。
「なに? 二人でこそこそ話しちゃってさ。ずるくない?」
「ずるいってなんだよ深司!」
「あと一条さんは腕力ありすぎだから。ゴリラにでもなるの?」
「酷いね、伊武くん。せめて人間で例えてよ……」
「そもそも見た目細いのに、どこにそんな腕力があるんだよ……」
「あ、それ俺も思った」
「うん、私自身も最近よく思う」
「は!?」
「本当どっか変だよね一条さんってさ……」
不動峰の2年生2人と和気あいあいと話してると、突然、にゅっと後ろから延びてきた手に腕を掴まれて引き寄せられた。
そして響く、低い声。
「やはり、一条が不動峰と関係がある確率は100%だったな」
「いっ乾、さん……?」
「あっ、青学のっ!?」
「こんにちは、不動峰御一行。で、一条……不動峰との関係は?」
「関係も何も単に仲が良いだけですが……?」
「なるほど。データに加えておこう」
何度も言いますけど私のデータ、要ります?
「は、はぁ……ところで乾さんは何故ここに?」
「ミーティングが終わり、不二たちが探している。俺は不動峰の所にいるだろうと当たりをつけて来た。という訳で一条を連れていっても良いだろうか、橘?」
乾さんが私の隣に立ちつつ、そう問いかけると橘さんはハハハと笑って了承してくれた。
「石田から聞いたがそもそも一条は青学の不二に誘われたんだから、そっちにいるべきだろう。ドリンク、ありがとうな」
「あ、はい、どういたしましてです。不動峰も応援してますので!」
「じゃあ、悪いな橘。お互い頑張ろう」
「ああ」
「行こうか、一条」
私は不動峰の皆さんに頑張ってくださいね、と微笑んでから踵を返した。乾さんに腕をとられながら並んで歩く。
「乾さん、見つけてくださってありがとうございました。一人じゃきっと青学の皆さんの所まで辿り着けませんでしたから」
「礼には及ばない。……ところで、もし青学と不動峰が都大会で当たったら、君はどちらを応援するんだ?」
「は……?」
「あ、いや、単なる興味だ。気軽に答えてくれて構わないよ」
「はぁ……そうですね、どっちも同じくらい応援しますよ。どっちも夢に向かって必死だって知ってますから」
迷いなく答えると乾さんは逆光眼鏡の向こうで微笑むように目を細めた……ような気がした。何せ逆光なのでよく分からない。
「一条らしいと言えば一条らしいな」
「あ……あの、乾さん?」
「何でもない。協力ありがとう」
「何の、ですか?」
「データ採集の、だ」
「……ですよね」
ところでこの前から何でそんなに私のデータ欲しいんですか、乾さん。そんな疑問を呑み込んで前に向き直ると、不二さんがおかえり、と手を振っているのが見えた。無事に合流できてよかった。
きっと賑やかな試合観戦が始まる。
*****
去りゆく後姿を眺めながら、神尾は少し息を吐く。
(あー……一条さんとあんまり話せなかった。ってか今日髪おろしてて可愛かった)
「……なに一人で頭抱えて百面相してるの、神尾……」
「だってよー、深司ー。もうちょっと一条さんと一緒に居たかったっていうかさ」
「試合で頑張ったらまた 凄かったね! とか言ってこっちに来てくれるんじゃないの……」
「そっか! じゃあ頑張らないとな!!」
「神尾……チョロい奴……」
「おい聞こえてるぞ!!!」
燃える神尾と伊武を見ながら石田は、「やっぱり士気が上がったよ、一条さん!」とギュッと拳を握った。
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