女神と都大会4




は、速い……観月さんの歩くスピードが速い……。


拉致られた(?)私は足早に歩く観月さんにしっかり手を繋がれたまま、彼の背中を追いつつ歩を進めている。お弁当が傾いている気がして心配でならないが、パタパタと必死についていく。少しして青学から離れると、観月さんは歩く速度を緩めて、私の隣に並んだ。

そして視線を感じる……。

確実に彼に見つめられている気がして顔をあげると、案の定そうだった。視線がぶつかる。

「観月さん……?」
「……すみませんでした」
「へ?」
「貴方は青学の応援に来ていたのに、無理やり連れ出してしまって……。あと、足早になってしまったせいで、貴方に負担をかけてしまいました」
「あ……いや、そんな、足の方は本当にもうすっかり治っているので大丈夫です。それに青学は今からミーティングなので、私は離れていた方が良いですし、全然気にしないでください!」

申し訳なさそうに眉尻を下げる観月さんに、にこっと笑って返す。

「あと、観月さん、何か私にお話があるんですよね? さっき乾さんと喋ってるときに言ってましたし」
「ああ……そうですね。よろしければ、お昼を一緒に食べないかなと誘おうと思っていたんです」
「お昼ご一緒してもよろしいんですか?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ、お言葉に甘えます!」

お弁当、独りぼっちじゃない!

青学の人たちの輪の中で一緒に食べるのはなんだか気が引けるので、一人で食べようと思っていた所にこの申し出。正直、嬉しい。「一人で食べるつもりだったので誘っていただいて嬉しいです!」とお礼を言いつつ微笑みかけると、観月さんは笑いつつもなぜか思案顔だった。そして少し沈黙が生まれる。

観月さん……何か考え込んじゃった。

それがなぜか微妙に寂しくて、どうしました? の意味も込めて繋いだ手をぱたぱたさせてしまった。すると観月さんはすぐに気が付いてくれた。

「……あ、すみません、少し考え込んでしまっていたようで」

……しまった、子どもっぽいことをしてしまったな。恥ずかしい。

「あ、いえ全然いいです大丈夫です!」
「じゃあお昼も近いですし、そろそろ行きましょうか」

にこりと笑って観月さんは私の手をきゅっと握り直した。何故か指を絡めて。

あれ、これ何だっけ、確かこの前不二さんに……あ、恋人繋ぎだ。
でも、何でかな……普通に繋いでても良いんじゃないだろうか。

「あ、あの、……」

何て訊けば良いの!?

「会場は人が多いですからね、はぐれないように」
「は、え、はい」

通じた!?

若干の動揺を抱えつつ、観月さんに付いて聖ルドルフの集まりを目指して歩き出した。





*****





「――と、言うわけで僕達とお昼を一緒にする一条美里さんです」
「わりー観月、どういうわけ?」
「さっき説明したじゃないですか、赤澤。理解力が乏しいな」
「いや、だってお前 "天使を青学から貰ってきました" としか言わなかったじゃねーか!!」
「充分な情報じゃないですか」
「あの……観月さん……私、別に天使じゃないんですけど……」

私は確実にあんなピュアで可愛らしい生き物ではないので否定すると、隣からひょこっとアヒルっぽい人が現れた。

「でも天使のように可愛いだーね」
「え? あ……そ、それはどうもです」

素直に可愛いと言われたのは嬉しい……かな。

ちなみにあれから聖ルドルフの集まりに合流し、私は試合が終わった選手の皆さんの前にいる。要するに自己紹介中だ。

「とりあえずお腹空いたからご飯食べようよ」
「少し待ちなさい、木更津。自己紹介が先です」
「くすくす……仕方ないなぁ。じゃあ僕からいこうかな。木更津淳だよ、よろしくね」

そう言って名乗り出て手を差し出してきたのは、サラサラの髪とハチマキがトレードマークって感じの人だった。軽く手を握って微笑む。

「よろしくお願いいたします」

すると木更津さんに釣られるようにアヒルっぽい人と色黒な人と爽やかな人が私に手を差し出す。

「次は俺だーね。柳沢だーね」
「部長の赤澤だ」
「不二裕太……です」
「よろしくお願いいたします」

3人にちゃんと手を握り返すと、隣で観月さんが不思議そうに木更津さんに尋ねていた。

「あれ、他の者たちはどこへ行ったんです?」
「飲み物買いにいってるよ。帰ってきたらまた紹介させれば良いんじゃない?」
「まあ、そうですね」
「あ、じゃあとりあえず私も自己紹介させて頂いても良いですか……?」
「ええ、もちろんどうぞ」

快い了承を貰ったから、しゃきっと皆さんに向き直って口を開く。

「私は一条美里、……中学2年生です。観月さんにはこの間少しお世話になり、お昼ご飯に誘っていただきました。お邪魔します」

すると訝しげに赤澤さんに訊かれた。

「……女神の、一条?」
「あー……えっと……まあ、そうですね」
「あーっ、本当だーね! 雰囲気違ったから解らなかっただーね!」
「こ、こんなところにいて大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。今は怪我をして、少しリフレッシュ休暇中なんです」


しゃんと、前を向いて。ちゃんと、弱い自分を認めて。私はしっかり微笑んだ。


「だから、ただの一条美里として、接していただけると嬉しいです」


聖ルドルフの皆さんは一瞬驚いたような顔になったけれど、優しく頷いてくれる。

「改めて、よろしくお願いいたします」

ぺこりとお辞儀をすると、観月さんが私の肩を優しく抱いて「では、お昼にしましょうか」と柔らかく言った。



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