女神と都大会5
右隣に観月さん、左隣に不二裕太さんという状況でお昼ご飯の時間は始まった。聖ルドルフの皆さんと輪になって座っていて、目の前は……えっと、さっき飲み物を買ってきてくれたノムタクさんという方らしい。買ってきてくださった飲み物は私の分まであって、ミルクティーをいただいた。ちなみに観月さんの指示だそうで、観月さんは私の好みをある程度把握しているらしく、素直にすごいなと思った。え、私いつの間にデータ取られていたんだろうとかそんな細かいことはこの際、頭の片隅へ追いやった。
「うわー! 一条さんのお弁当、バランス良さそうですね!」
ほけーっとしていたら左隣から声がかかった。声をかけてきたのは不二裕太さんだ。
「ありがとう、えーと……」
何て呼べば良いんだろう、不二さんはもういるし……不二くん? 紛らわしいな……。
「……一条さん?」
彼の方を向いてそのまま黙ってしまったら、どうしたの、と目で問われた。いっそ本人に聞いてみようか。
「うん、貴方のこと何て呼べば良いのかな? って思って」
「え?」
「不二さんって知り合いがいるから、出来れば名前で呼びたいんだけど……大丈夫、かな?」
初対面で名前で呼ぶなんて馴れ馴れしい! と感じる人なら素直に不二くんと呼ぼう、と微かな決意をしつつ尋ねてみると、驚いたような表情で返事が返ってきた。
「全然、良いですけど……その不二って、不二周助?」
「あ、大正解。裕太くんも知り合い?」
「知り合いも何も、不二周助は裕太くんのお兄さんですよ」
んふ、と笑いながら割り込んで答えをくれたのは観月さんだった。
へぇー……、裕太くんって不二さんの弟さんなんだ。
よく見てみると、確かに面影が似ているような……どことなく爽やかさが似ているような……気がする。とは思ったけれど、それ以上に気になったことがあったので裕太くんを見て尋ねた。
「へぇ、そうなんですね。それより裕太くんって敬語キャラ? なの?」
「……え?」
「だって同い年なのに敬語だから……」
さっき観月さんに皆さんの年齢を聞いたから、裕太くんは同い年だと知っている。なのでタメ口で話し掛けたのに敬語で返ってきたからどうも引っ掛かったのだ。……という心境を掻い摘んで話すと、裕太くんはきょとんとした表情になった。
「いや……、なんか一条さんって雲の上の存在って感じがして」
「うーん、出来ればそういうの気にしないでほしいかな」
「うん、分かった。ごめんな」
「全然良いよー」
少し近づいた気がしてほわほわ笑うと、不思議そうに裕太くんに見つめられた。どうしたんだろう。
「それはそうと……一条さん、俺が不二周助の弟って聞いて何も思わないの?」
「うっすら似てるなーとは思ったけど」
「いや、そうじゃなくて……何で俺が青学じゃないのか……とか」
「だって、不二さんは不二さん。裕太くんは裕太くんじゃない」
何でそう思うのかな、と疑問に思いつつ、私はスパッと言い切った。裕太くんはいつの間にかお弁当を食べる手を止めてこちらを見て、固まっている。
「え……?」
「裕太くんは裕太くんなりの生き方……みたいなのがあると思うし、全部お兄ちゃんを追って見習ってなんて生き方は面白くないじゃない?」
「うん……」
「だから私は同一視したりはしないし、どうして一緒じゃないの、なんて思わないし言わないよ」
その為に呼び方を変えたわけだしね、と笑ってみせると、裕太くんは目に光が差したような笑顔で「そっか、ありがとな」と呟いていた。なんだか友情が深まった、と初対面だけど裕太くんと仲良くなれた気がしてにこにこしていると、ふわっと右から延びてきた手に頭を優しく撫でられた。
「……観月さん?」
「ありがとうございました」
「……はい?」
「裕太くんを認めてあげることは、裕太くんの成長に繋がりますから」
「それなら良かった……です。誰かの力になれたのなら、嬉しいです」
「貴方は優しい方ですね」
「……? でもきっと観月さんも気づいてましたよね?」
気づいて、適切な対応をとったからこそ裕太くんは2年生にして頼れるレギュラーなんだと思う。
「……ええ、まあ」
「だから、裕太くんを最初に救った観月さんも、優しい人ですよね」
私がくすっと笑うと「……これは、一本とられましたね」と観月さんは優しく笑った。
*****
俺こと不二裕太はついさっき、観月さんが連れてきた一条さんについ目を奪われた。いままでテニスの大会で見ていた姿とは印象が違って普通に可愛いし、よく笑って楽しそうで、目が離せない。どきどきする。
でも、周助の知り合いだと知って少し警戒した。
でもでも、そんな俺に彼女は「同一視しない」と優しく笑いかけてくれたんだ。
距離が近づいたところでもっと話したい! と思った瞬間、彼女は観月さんと楽し気に会話し始めてしまった。そして俺は左隣の木更津先輩に捕まった。
「くすくす……とられちゃったね」
「木更津先輩……」
「裕太、微妙に悔しそうな顔になってるよ」
「え、そんな、俺……」
「観月も随分執着してるね〜」
至極面白そうに先輩が見つめる先では、観月さんと一条さんが仲良さげに話している。うらやましい。
「仲、良さそうですよね」
「うん、まあ付き合ってはいないみたいだけど」
「え?」
「さっき美里ちゃんに訊いた。彼女曰く観月は "お兄ちゃん" なんだって」
「そう、なんだ」
二人が付き合っていないと聞いて、どこかホッとしてしまった。どうしてだろう、こんなに気になるのは。気になるといえば、この人もだ、とくすくすと相変わらず笑う木更津先輩に俺は訝しげに問いかけた。
「ってか先輩、名前呼びですか?」
「美里ちゃんがそれで良いって言ってたから」
「そうですか……」
「なに、ショックなの?」
何でこんなに嬉しそうなんだ木更津先輩。
「別に」と冷たく返すと、少し真剣な声色で先輩は呟いた。
「良いよねー、美里ちゃん」
「……はい?」
「初対面なのに裕太のことちゃんと解ってるし、それに見てみなよ? 観月の顔」
そう言われて観月さんを見てみれば、滅多に見せないような柔らかい笑顔だった。何だあれは。
「……珍しい表情っすね」
「でしょ? 観月にあんな顔させるなんて、面白い子だよね」
「俺も美里ちゃんに近づいてみようかなー、連絡先もさっき交換したし」と呟いた木更津先輩に多少びっくりしつつ、俺は強く言い放った。
「負けませんよ」
「じゃあまず裕太はメアドゲットから始めないとだよね」とくすくす笑い返されたのは言うまでもない。
「一条さん! 連絡先教えてくれないかな?」
「裕太君、もうミーティング始めますよ。」
「みっ、観月さん……!」
「あ、えっとじゃあ裕太くん、後で淳さんに聞いておいてくれないかな? 私から言っておくから」
「淳さんって、ああ、木更津先輩か。うん、分かったありがとう!」
「試合頑張ってね!」
「うん!」
「観月さんっお待たせしまし、た……観月さん? なんでそんな般若のような顔を……」
「なんでもありません。行きますよ」
「あっ、はい」
あの時、観月さんがなぜあんな表情をしたのか俺にはよく分からなかったけれど、とりあえず連絡先がゲットできてよかった。
| back |
| top |