女神と都大会6




そしてまた拉致されました。というか本拠地に帰ってきました。

私の左手はしっかり不二さん(お兄さんの方)に握られていて、右隣には乾さんがセットされているというただ今の状況。足りていない桃くんはというと、今まさに目の前で試合中だったりする。そして、珍しくダブルスの桃くんは淳さんと柳沢さんのペアに当たっている。

あ、淳さんに手を振られた……振り返しておこう。


という訳で私は青学の皆さんに囲まれて、青学と聖ルドルフの試合を観ているところだ。そもそもどうして帰ってこれたのかというと、お昼ご飯を食べ終わって聖ルドルフの皆さんと、氷帝の試合を観ていた時の事がきっかけだった。





*****





「食後の運動がてら、氷帝の試合を観に行きませんか」とお昼の後に観月さんに誘われて、一も二もなくうなずいた私は氷帝が試合をしているコートに出向いていた。


「凄い応援団、ですねぇ……」
「くすくす……氷帝は部員の多さでも有名だからね」

ね、と隣から覗き込んできたのは淳さん。逆サイドの観月さんは私の手を握っているので、気分は保護者同伴だ。淳さんに「そうですね」と返してコートを見ると、そこにはよく見知った人がいて思わず声が出る。

「あ、宍戸さんだ」

ぽつりと呟くと、不思議そうに観月さんに訊かれた。

「知り合いですか?」
「ええ、よくお世話になっているといいますか……」

っていうか宍戸さんって氷帝だったんだ……。あれ、確か跡部さんも氷帝だよね? え、じゃあまさかこの人数のトップに立ってるってこと……!?

そんなに凄い人だったんだ、跡部さん。

今更気づいた事実にしみじみと凄さを噛みしめながらコートを見ると、ちょうど試合が始まるところだった。けれど、見えない。背が小さいってこういう時とても不便である。仕方がないので「ちょっと前の方で試合観てきますね」と2人に告げて、メモをとるためにちょうど私の手を離した観月さんの横からするりと抜け出して、前へと進んだ。


おぉー、よく見える……あ、氷帝勝った。
でも宍戸さん……やっぱり少し……いや、気にしすぎ、かな。

と一通り試合を観たところで戻ろうと思って周りを見渡すと、当然の事ながら、観月さんたちはいなかった。そりゃこんなに人がいたらはぐれるよね。若干の寂しさを感じつつどうしたものかと知り合いを探すと、目線の先には黒いお三方が。これ幸いと迷わず声を掛ける。

「橘さーん! 神尾くん! 伊武くん!」
「一条!? 青学といたんじゃなかったのか?」

駆け寄ると少々驚いた顔をしつつも橘さんたちは立ち止まってくれて、私に話しかけてくれた。

「えーと……少し深い訳がありまして」
「……どうせ迷子にでもなってるんだろ……」
「あはは、否定できないなー……」
「一条さんが迷子なら誰か探してるんじゃないかな?」
「そうだと良いなー」

と、伊武くんと神尾くんとテンポよく会話をしていると、橘さんは「じゃあ迎えが来るまで暫く俺たちと話さないか」と切り出してくれた。私は「もちろんです! お邪魔じゃなければぜひ」と微笑んで3人との会話を楽しむことにする。


「じゃあ無事に勝ち上がってるんですね。おめでとうございます!」
「ありがとう、一条。ところでさっきの氷帝戦観たか?」
「観ましたよー」
「どうだった?」
「うーん……。そうですね……一言でいうと……油断、でしょうか」
「油断?」
「はい。当たり前をそつなくこなす、故の油断を感じました」

軽くサクっと勝った試合。でもそこにはあまりにも『当たり前』が溢れすぎて。

「常に一戦を大事に闘っている橘さん達や、青学の皆さんとは違った感じがしました。強者ゆえの余裕なんですかね」

素直に感想を告げると「流石一条だな」と橘さんに褒められた。神尾くんはひたすら「一条さんすげー」しか言っていない。伊武くんは……あれ、なんか笑っている。

「いや素直過ぎるでしょ、一条さん」
「えー……だってここで "氷帝強かったです!" ってだけの意見を求めてる訳じゃないんだろうなって思って」
「いや……そうかもしんないけどさ……」
「それに、私は無条件に何でもかんでも "凄い" とか言えるほど心広くないから」

本当にすごいと思った時しか口にしないよ、と苦笑したところで突然、後ろから肩を抱き寄せられた。

「う……わっ?」

訳が分からず振り向くと、後ろにはほっとしたように綺麗に笑う、彼がいた。触れられた肩がとても暖かい。

「ふ、不二さん!?」
「ふふ、やっと見つけた」
「どうしてここに?」
「向こうから氷帝の試合を観ている君を見つけたから追ってきたんだ」
「そうだったんですね……!」
「さ、帰ろうか」

そう言い不二さんは手を差し出すけれど、私はいま不動峰の皆さんと絡んでるわけで……、その手を取っても良いのか悩み、橘さんに視線を送ってしまう。すると橘さんはそんな私を見て事もなく笑い、「今度は不二がお迎えか。大事にされてるな、一条!」と言ってくれたので安心して、不二さんの手を取ることにした。

「悪いね、橘。美里ちゃんは貰っていくよ」
「ああ、今度ははぐれるなよ一条」
「き、気をつけます。構ってくださってありがとうございました、橘さん、神尾くん、伊武くん」
「全然いいよ! また話そうぜ!」
「まあ、話してて楽しかったよ」
「じゃあ、試合頑張ってくださいね」
「ああ、任せろ」

「それじゃあ行こっか」と、にこやかに私の手を取って歩き出した不二さんに並んで私も歩き出した。

「見つけてくださってありがとうございました、不二さん」
「 これくらいお安いご用だよ」

クスッと笑った不二さんに「でも少し心配したよ」と付け足されて申し訳ない気持ちになったと同時に、心配されて嬉しいだなんて感じた私は不謹慎なのかな。なんて心のどこかで思った。





*****





と、いうわけで私は青学サイドに帰ってきた。聖ルドルフのみなさん、何も言わずにいなくなってごめんなさい。そしてなんか物凄く観月さんの視線を感じる。ちなみに今、試合はダブルスが2つとも終わり、一勝一敗でシングルスに突入している。

大石さん?たちが負けたのは意外だったなー……あのダブルスは息ぴったりだったのに。

ただあの試合は見ていて目が痛かった。赤澤さんが打つとなぜかテニスボールがぶれて7、8個に見えるという恐ろしいマジックが起こっていた。ガットの端で打っているせいだろうか。赤澤さん、お願いだからボールはラケットの中心で打ってください。

そして、桃くんたちが勝ったのも意外と言えば意外だった。まさか、ダンクスマッシュがホップするなんて。まともにくらった柳沢さんが見事にダウンしていて非常に心配になった。でもさっき淳さんの方を見たら 心配しないで、と言いそうな表情で手を振ってくれたし、多分大丈夫なんだろう。
ちなみに、試合を途中で放棄された桃くんは不完全燃焼で隣でへこんでいる。

「俺もよー、こんな風によー、越前みたいにかっこよくバシッと試合したかったんだぜー……」
「まぁほら、元気出して桃くん。次の機会は必ずあるんだからさ。あとある意味バシッと決まってはいたから、ダンクスマッシュ」
「それのせいで試合がーっ、ま、後悔はしてないけどな!」
「うん、それは良かった。次バシッと勝つの、楽しみにしてるよ」

ニコッと笑って座り込んだ桃くんに手を貸す。しっかりとその手を掴んで立ち上がった桃くんは、いつもの明るい桃くんだった。

「おうよ! ありがとな、一条!」


そんなやり取りをしつつ、私たちはコートの中のヒートアップする試合に2人で目を向けた。



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