女神と都大会7




とりあえず聖ルドルフとの試合を観て気づいたことは、観月さんが策士だということ。頭良いなとは思っていたけれど、ここまでデータ揃えてくる派だとは思わなかった。

動体視力が良すぎる菊丸さんとやらの対策にブレ球を打つ赤澤さんを当てて集中力を削ったり。器用な淳さんと柳沢さんを桃くんと海堂くんとやらに当ててスネイクの対策にしたり、苦手コースを狙ったり。現に今だって、『左殺し』と呼ばれる裕太くんにサウスポーの越前くんを当ててきている。対戦相手を見透かしたようなオーダーだ。観月さんは先見の能力でもあるのだろうか。

でもそれ以上に大変気になっていることがある。そう思いながら越前くん達の試合に目を戻すと、ちょうど裕太くんがまたツイストスピンショットを打ったところだった。

あのショットはよろしくないかなー……。

身体を無理に使って打っているから、そのうち絶対どこかしら痛めると思う。というか成長期の身体にはキツいショットのような気がするのだ。とは言うものの、確かに威力は凄いショットだから観月さんは裕太くんに使わせているのだろうけれども。

勝つために手段は選ばない、のかな……。チームメイトなのに……。

そう思うと悲しいし、そもそも何か違う気がするけど私が口を出せるようなことではないので、心の中に留めておくことにする。そんな風に悶々と考えつつ試合を眺めていると、突然越前くんがツイストスピンショットを攻略した。ドライブBという新技らしい。素直にすごいと感じる、というか本当に楽しそうにテニスするよね、越前くん。地区大会の時の迷いのようなものがなくなったように見えるし、活き活きとテニスをしている。そんな姿は見ていてこっちまでウキウキしてくる。

「随分楽しそうだな、一条」
「え? そんな風に見えます?」

どうやら無意識のうちに私の表情には楽しさがにじみ出ていたようだ。隣で試合観戦していた乾さんにしっかり指摘されてしまった。

「見えるも何もさっきから笑顔じゃないか」
「あ……無意識でした。あまりにも越前くんの試合が楽しくて」
「楽しい? 一条自身が試合をしている訳ではないのに?」
「だって越前くんの試合、次はどうなるんだろうって楽しみで。そうですね、びっくり箱みたいじゃないです?」
「びっくり箱、か。また面白い表現を使うな」

ニヤッと笑みを浮かべた乾さんに、ふふっと笑い返してコートに目を戻すとちょうど越前くんが勝ったところだった。

「2勝1敗、リーチですね」
「次は不二と観月の試合だが……一条はどう見る?」
「どう見るも何も……」

眼鏡の青学部長さんに「今回は君まで回りそうにないから!!」と宣言し、コートに向かう不二さんに視線を向けると、ばっちり目が合った。いつもより目が開いていてちょっとびっくりする。相変わらず目が綺麗ですね。

そのままじっと見つめあってしまい、何か言わないといけないような衝動に駆られたが、不二さんの方が沈黙を破ってくれた。

「美里ちゃん」
「はい」
「……試合に ”勝つ" ことに卑怯とか、狡いとか、あると思う?」
「…………」

どういう意味なんだろうか、と少し考える。試合でそういう風にゲームメイクをするのは、作戦としては正直アリだとは思う。頭を使って試合を運ぶなら、真剣勝負だし狡いも何もない。

ただ、 "勝つ" ってことについては……。

「……ルール違反だとか、不正で誰かの力をつかって "勝つ" 、のは卑怯だと思いますし、あってはいけないことだと思います」
「うん」
「でもそれ以外での "勝ち" には卑怯だとかはないんじゃないでしょうか」
「……どうして?」
「だって方法はどうであれ、その人がその人自身の力で手にしたものですから。それも作戦のうち、というものではないですか」
「……そっか」

考え考え言葉を絞り出すと、不二さんはチラッとコートの中の観月さんを見つめた。その意味深な視線に不二さんの心を察してしまう。

あ……そっか、不二さんは裕太くんのお兄さんだからきっとあんな危険な技が許せないんだ……。

そしてきっとそれを教え、試合で使わせた観月さんが許せないんだ。そう気づいた私は、ぽつりとさっきの自分の言葉にフォローを入れた。

「……ただ、いくら勝つ為とはいえチームメイトを犠牲にするようなやり方は、私は好きではありません。だから、」

だから、何なのだろう。

ここで不二さんのプレーで観月さんの目を醒まさせてほしいと望むのは、あまりに自己本意ではないか。言ってしまえば観月さんがどうなろうが不二さんには関係のないことだろうし。でも、このままじゃいけないはずだ。観月さんも、裕太くんも、不二さんも、どこか心にわだかまりを残してしまうような気がする。どうしたらいいのか、何て言えばいいのか。うまく言葉を繰り出せず、少し黙り込んだ私を心配そうに除き込む不二さん。思わずその指先を、そっと握った。

「……美里、ちゃん?」

顔を上げ、不二さんの綺麗な目を真っ直ぐ見つめて声に出す。

「だから、不二さん、試合頑張ってください。私、すごく応援してます」

結局そんな軒並みの言葉しかでなかったけれど、意図が通じたのか不二さんは私の手をしっかり握り返していつもの笑顔で微笑み頷く。

「うん、分かった。頑張ってくるね」

そう言ってくれたので私としてはどこか安心して、不二さんをコートへと送り出すことができた。


「 "勝ち" に卑怯などはない、か。結構シビアなことを言うんだな、一条は」
「間違っていたでしょうか……乾さん」

即席で考え付いた持論が不安だったので、思わず乾さんを見上げると、彼は勇気づけるかの様に私に微笑んでくれた。

「きっとさっきの問いに正解なんてないさ。ただ今の不二には正解の返事だったんじゃないか」
「そう……だと、良いですけど」
「君が自分の言葉を信じなくてどうする」
「でもやっぱり差し出がましいというか、そんな感じが……」
「……不二は君と観月の仲が良いことを知っている。だから余計、試合の結果次第で一条との関係にヒビが入ってしまったら、と考えたんだろうな」
「はあ……よく分かんないですけど、どっちが勝ったからと言って私はどちらかを嫌いになるなんてことは絶対しませんよ」
「それを聞けて安心だ」
「でも、正直今は不二さんを応援しています」
「青学サイドにいるからかい?」
「違います。観月さんのやり方に納得がいかないからです」
「ほう、君はあくまで君自身に従う、と。データに加えておこう」
「いやあの、こんな悪口みたいなの加えないでください……!」

そんな感じで乾さんとじゃれていたら桃くんも加わってきて、改めて3人で試合を観戦する流れになった。コートに視線を向けると、不意に不二さんが口パクで何か伝えてくる。

” あ、り、が、と ”

そしてその後、付け加えられる、ふんわりと優しげな笑み。

わ……きれい……。

あんまりにもその微笑みが綺麗だったので、私もとりあえず笑っておきました。



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