図書館にて




今更だけど、守おじさんのことを全く知らないのはいくらなんでもマズイ気がしてきた。

そもそも失礼というか、中身が入れ替わっているとバレたらやばいというか。ちなみに守おじさんが家に帰ってきたときはなんとか誤魔化しているので、現状では不審に思われていないはずだ。というよりも守おじさんの仕事の話より、私の最近の状況を聞かれがちなので話題が専らそっちなのだ。

いや……でも、守おじさんのお仕事の成果、つまり『月刊プロテニス』とやらに興味があるんだよねぇ……。

ちなみに本音を言えば最近テニス自体に興味を持ち始めたので、単純に読んでみたいだけなんだけれど。その思いが抑えきれなくなった私は今、『月刊プロテニス』のバックナンバーが豊富な市立図書館にいる。



「「……あ」」

『月刊プロテニス』最新刊に手を延ばしたら、反対から延びてきた手にぶつかった。宍戸さんとのお醤油事件の時もそうだったけどやっぱりこういう場合は譲るべきだよねと思い、にこやかに手を引いて相手に譲った。ついでに相手の顔をさりげなく確認する。

どっかで見た顔だなぁ……ていうか髪型がユニーク過ぎるんだけど……。

「あ、これどうぞ、持っていってください。私は他のものを読みますので」
「えっ、そんな悪いよ! 俺が他のを読むから君はこれを持っていってくれないかい?」

譲ったつもりが人が良い言葉と共にあっさりと渡されてしまった。でも私はバックナンバーで充分だし、いま思い出したがこの人はたしか青学レギュラーのはずだ。というかこの前の都大会で見た顔だ。対戦相手の情報収集とかかもしれないし、やはり私が譲るべきだろう。

「いやいや、私はバックナンバーで充分なんでどうぞ」
「いや、俺もバックナンバーで充分だから、ほら」
「いやでも私はただの一般人なんで、いいです!」
「いや俺だって一般人だからね? ほら、」
「…………何をやっているんだ、大石」
「手塚!」

よく分からない譲り合いが段々押し付け合いとなりかけた頃に、低い声が割り込んだ。振り向けばそこには、眼鏡で中々渋い顔つきの、手塚さんとやら。この人の顔も先日の都大会で見た気がする。戸惑って言葉が出ない私に代わって大石さん(多分)が説明をしてくれた。

「いや、この子と『月刊プロテニス』の最新刊の譲り合いになっちゃってね」

困ったように私に笑いかける彼の視線の先を追って、私と目が合った手塚さん(多分)はものすごく驚いたように目を見開いた。

「一条、美里さん……!?」
「え……まさか君、あの一条さん?」

ああ、そうか。この人達も私のこと知っているのか。

「え、はい、私は一条ですが」
「どうして、ここに?」
「えっと『月刊プロテニス』のバックナンバーを読みに……。なんで、最新刊は本当に持っていってもらって構いませんよ?」

若干話が逸れかけたのできちんと話を戻しつつ、お二人の邪魔をしないように立ち去ろうかと考えたところ、大石さん(多分)に止められてしまった。

「でもやっぱり申し訳ないよ」
「……それなら、一緒に読んだらどうだ?」

見るに見かねて手塚さん(多分)が提案すると、大石さん(多分)は「それは良いね」と同調したので、私も賛成することにした。このままだとどう考えても譲り合いが終わりそうになかったし、ありがたい申し出だ。

「時間とか大丈夫かな? 一条さん」
「あ、はい、大丈夫です。私の方こそお邪魔じゃないですか?」
「俺は大丈夫だけど……」

手塚も良いよね? と大石さん(多分)が手塚さん(確定)に問い掛けると、力強い頷きが返ってきた。

「構わない。それに俺は少し一条さんと話をしてみたい」





*****





そんなこんなで、交流会は図書館の片隅で、とりあえず自己紹介から始まった。

「先ほどは急に名前を呼んで悪かった。俺は青春学園中等部3年でテニス部部長の手塚国光だ。よろしく」
「俺も同じく、副部長の大石秀一郎だよ。よろしくね」

大人っぽい眼鏡さんが手塚さんで、卵頭さんが大石さん。よし覚えた、と私は2人を真っ直ぐ見つめ返して微笑んだ。

「改めまして、一条美里です。とある事情で最近テニスはお休みしてますが、手塚さんと大石さんがご存知の " あの一条 " で間違いはないかと思います」
「とある事情、か。……すまなかった」
「え?」
「さっきの態度が失礼だったと思ってな」

誰にでも詮索されたくない事情や過去はあるだろう、と手塚さんはすまなさそうに眉尻を下げた。その隣で大石さんも同じような表情をしている。とても相手のことを思いやれる良い方々のようだ。変な詮索もされずに済み安心した。

「あの、慣れているので気にしないでください。ただ……そうですね、 " 女神 " ではなく単なる一条美里として扱っていただけると嬉しいかな、なんて」

イメージが先行しちゃってるんで難しい話ですよね、と困ったように笑うと、私の目の前に座る手塚さんは微笑むかのように少し目元を緩めた。

「では、 " 単なる1つ年下の女子 ” として君のことを見よう。その上で、俺は君と色々話してみたい」
「私、そんな面白い人間じゃないですよ……?」
「君は大石と本を譲り合うくらいのお人好しだ。興味が沸いた」

え、矛先そこなんですか!?

「では、こんな私で良ければお話に付き合います」
「よろしく頼む」
「あ、手塚だけズルいな。俺も君の事は " 単なる優しい年下の女の子 " として見ることにするよ。改めてよろしく、一条さん」
「ふふ、了解です」

何だか、 " あの一条 " と言われて少し警戒した自分が馬鹿馬鹿しくなった。こんなに優しい人たちに警戒しても仕方がないだろう。 " 女神 " なんていう肩書きを気にせずに接してくれる手塚さんと大石さんのお陰で、暖かい気持ちになったのでふんわりと微笑んだ。

「ありがとうございます」

こうして交流会は幕を開けたのだった。



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