女神と都大会14
千石さんたち山吹中の試合相手はなんと、不動峰だった。
神尾くんたちが遅刻間際で来てたから、山吹中のフェンスに落ち着いてから相手に気づくというまさかの展開です。
(ちょっ…え、どっち応援すれば良いんだろ……どっちも応援しよう)
少し迷ったけどどちらかに感情を傾かせるのはフェアじゃないような気がして、コートの真ん中の方のフェンスに移動しようと思い、山吹サイドから移動する。
(まぁぶっちゃけ不動峰に感情が偏りそうですが…)
地区大会から応援しているから仕方ない、と結局フェアじゃない自分を適当に誤魔化して山吹中のベンチの後ろを通ろうとすると。
「一条…さん?」
驚いた表情のおじいさんと目が合った。
(え、誰この人……って山吹中のベンチにいるから顧問の先生かな…?)
とりあえずシカトは良くないと戸惑いつつ足を止めて、おじいさんと向き合う。
「えっと……確かに私は一条なんですけど…。」
「ああ、急に呼び止めてしまいすみません。私は山吹中の顧問の伴田と申します。」
「あ、私は一条美里です。」
「やはり…女神の?」
「(あー…やっぱりそうきたか)女神…の、ですね。一応。」
若干の苦笑いになったのは許していただきたい。
私が"女神"だと言うと伴田先生は更に驚いた表情になったから、さらりと私のテニス事情を告げておいた。(つまり、今はリフレッシュ休暇中だと)
「それはまた…私の配慮が足りませんでしたね。ぶしつけに事情を聞いてしまってすみません。」
「いえ、そんな頭を下げないでください。…結局、単なる我が儘でしかないんですから。」
(そう、なんだかんだで私は私を守りたくてテニスをしないんだ)
普段埋もれてる決まりきった事実に苦笑すると、伴田先生も同じような表情をしていた。
「(まだ中学生なのに…いやに大人びた考え方なのは、"女神"でいなければならなかったから…なんでしょうね)」
「伴田先生…?」
「ああ、いえ。貴女の実力なら今にでも山吹に来ていただきたいなと思いましてな。」
「だから、あの…テニスはもう……。」
「テニスを出来ないから要らない、私はそうとは思いません。」
「…え?」
「貴女はテニスに向かい今まで真っ直ぐだった。その熱意と知識量があれば、マネージャーとしてもとても有能そうですからね。」
「はあ…。(ま、まさかのマネージャー路線でのスカウト…)」
「だから、卑屈になる必要はないんですよ。貴女は今まで充分過ぎるほど頑張りすぎたんですから。幾らでも休憩すべきです。」
ニコニコと、笑う伴田先生を見てやっと真意に気づいた。
(ああそっか…この人励ましてくれてるんだ…)
ほっとした。
無性に、ほっとした。
大人、ましてやテニス部の顧問の先生はみんなうちの先生みたいにキツいと思ってたから。我が儘言うんじゃない、と注意されるかと思ってたから…。
と、ここまで考えて…はた、と気づいた。
(あれ、何で私がこっちの『私』の顧問とか知ってるんだ…?)
(でもまあ、もうすぐお試しトリップ(?)が終わるし、同化しかけてるのかな?)
あまり考えたくなかったから、適当に理由をつけて、頭の片隅に追いやって。
私は目の前の伴田先生にニコリと微笑んだ。
「ありがとうございます。」
「(実は素直な子だったんですねぇ…)いえ、本当に山吹中に欲しいくらいですよ。」
「それは、ちょっと…。」
諦めない伴田先生に改めて苦笑すると、急にずしりと背中に重みを感じた。
直後に頭上から聞こえる、咎めるような声。
「あーっ、伴爺がナンパしてる!」
「せ、千石さ…っ?(重っ、くはないけど暑いです!)」
「してませんよ。君と違って。」
「大丈夫、美里ちゃん?何もされてない?」
「大丈夫です。至って平気です。」
(むしろ励ましてくださいましたし……というか、"何か"しているのは千石さんじゃ…?)
後ろから抱き着いている自分のことは棚に上げるんですね、千石さん。
なんて突っ込めるはずもなく、あははとひきつった笑が出た。(仕方ないです)
私を抱き締めながら伴田先生と2、3言交わした千石さんはまだ試合じゃなくて暇だそうだ。暇潰しに抱き着くんですか!?とまたもや突っ込みを飲み込み、少し暑くて身動ぐと千石さんはアッサリ解放してくれた。
(あれ、意外とアッサリ…?)
不思議に思って振り向くと、困ったような顔の千石さん。
「?どうしたんですか…?」
「あー、うん。ゴメンね美里ちゃん…さっきの話聞こえちゃった。」
「私の、テニスについての話…ですか?」
「うん。ゴメンね。」
(別に聞かれても大丈夫なんだけどな…)
それでも真剣に謝る千石さんはやっぱり、ヘラヘラっとしつつも根はしっかりしてる人なんだろうなと思う。
「良いですよ。どうせその内どこかから聞く話でしょうし…。千石さんに聞かれたからって、不快に思ったりとかしてませんから。」
だからそんな申し訳なさそうな顔をしないでください、と目元を緩めると、千石さんもニコリと明るい笑顔に戻ってくれた。
「(この娘の綺麗なプレー好きだったんだけどなぁ…でも、)…俺ね、美里ちゃんの今の笑顔好きだよ。」
不意に私の頭を撫でた千石さんに、今の私を、認められたような気がして。
「…ありがとうございます。私も千石さんの笑顔、好きですよ。」
見てると元気が出るんです、と心の底から零れた笑みを千石さんに向けた。
「……っ。」
千石さんの頬が何故か一瞬朱くなったのを不思議に思いつつ見つめると、「ありがとね」と一拍遅れて返ってきた。
「(千石さんどうしたんだろう…?)はい。」
「(不意討ちだった…!)あ、そうだ美里ちゃん。」
一拍置いたお陰か、いつもの調子に戻った千石さんは片手を私の頬に当てて、ニヘラと笑った。(なんか…すごい笑い方ですね…!)
「でも俺ね、美里ちゃんがマネージャーだったら頑張れそうな気がするな!」
「えぇえ、その話まだ引っ張りますか…!?」
「おや、千石くんも賛成ですか。どうですか一条さん、ぜひ我が校へ…。」
振り向いた伴田先生と期待に満ちた千石さんに困ったように笑う。
とりあえず、自分の学校嫌いじゃないんで残念ですがお断りしますと、返しておきました。
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