女神と都大会15
結局、千石さんと伴田先生に捕まってしまった(?)為に山吹中側で試合観戦中です。
今はダブルス1の試合中なので千石さんは「あのほっぺぐるぐるが喜多でー、頭に葉っぱ生えてるのが新渡米だよ」と隣で教えてくれたりしてます。
ちなみにダブルス2は不動峰が負けちゃいました。…少し残念な気分。
(でも千石さん曰く、山吹中のダブルスは全国レベルらしいからなぁ…仕方ないのかな)
とは言え、とチラリと試合に目を向ける。喜多さんとやらが不動峰の…石田くんたちのコートにスマッシュを決めたところだった。
(なんか…違和感だなあ…)
いくら山吹中が強いと言っても、試合が一方的すぎる気がする。不動峰は青学と張り合ったくらいだし、この間の氷帝戦でも確実にレベルアップしたと思ってたのにこの状態。
腑に落ちないなぁ…と感じつつも、試合はあっさり終わってしまった。
もやもやが拭えない私を、不思議そうに千石さんが覗き込んでいる。
「美里ちゃん、どうしたの?」
「え…あ、えっと…山吹中勝ちましたね。おめでとうございます。」
「ありがと、まだあとシングルス3の試合があるけどね。」
「千石さんはまだ出ないんですか?」
「んー、俺はまだ。出番あるか解んないけどね。」
「む、そんなこと言って…。不動峰だって強いんですよ?特に、シングルスが。」
「ふぅん…。」
言ってから若干千石さんに八つ当たりしたような感じだったと気づき、小さく謝罪した。(千石さんは気にしてないよと笑ってる)
そして2人で試合に目を向けると、やはり一方的に山吹中が押している。
そんな様子にぽつりと、ため息と言葉が漏れてしまう。
「なんか、やっぱり違和感だなぁ…。」
「どうして?」
不思議そうな千石さんを見つめて、少しむくれたように返す。
「不動峰が不動峰らしくないなって、思ったんです。」
「あ、そっか…美里ちゃんは不動峰も応援してるんだっけ?」
「はい。あー…だから山吹中を応援できない、とかそんな話ではないんですけど…。」
「うん?」
「…私、不動峰の試合を地区大会から見てるんです。だから、彼らはもっと力持ってるはずなのに…というか…。」
千石さんが促してくれたから喋ってみたけど、どうも『自分が全て知ってます』みたいな図々しい言い方になってしまって、苦笑した。(私も大概"らしくない"な)
そんな私に、そっかぁと千石さんは笑って、「今日は本調子じゃないのかもね」と言いながら私の頭を撫でた。(なんかなだめられてる気分だなぁ…)
嫌な気分はしないのでそのまま暫く撫でられておく。
千石さんは優しく撫でるから少し不安感とかもやもやが消えていくのを感じる。
(千石さんもお兄ちゃん…って感じだなぁ…)
(あれ、私お兄ちゃん何人目?)
生まれた疑問はスルーして試合に目を戻すと…コートには苦しそうな伊武くんがいて、少し胸が痛んだ。
(伊武くんまで…。あぁあ本当にどうしちゃったの!)
なんて叫びたい気分を押さえるのと、橘さんの「バカヤロウーーっ!!」という叫び声がコートに響くのは同時だった。
「!?」
「不動峰、の…?」
「た、橘さんの声…ですね。どうしたんでしょうか…?」
思わず千石さんと顔を見合わせていると、コートでは橘さんは棄権を宣言していた。
(……って、棄権…?)
納得いかなくて思わずポカンとすると、伴田先生がフェンス付近にやって来て、「不動峰が棄権したので山吹中の勝利です。決勝まで少し身体を休めてください」と(私には)ズキンとくる言葉を発する。
「ラ……ラッキー…?」
「不謹慎ですよ千石さん。」
「うん、俺も他人の不幸は素直に喜べないなぁ…。ゴメンね。」
「あ、いえ…えーと…。とりあえず決勝進出おめでとうございます。」
「ありがとう。」
「決勝も頑張ってくださいね。…それでは、私は少々用事を思い出したので失礼します。」
「うん、次も頑張るね……って美里ちゃん!?」
千石さんが言い終わらないうちに駆け出した。行き先はもちろん不動峰の皆さんのところです。
(気になるなら自分で尋ねるまでだよね!ってことで置き去りにしてごめんなさい千石さん!!)
若干の罪悪感をスルーしつつ、立ち去った模様の不動峰を追いかけました。
*****
「じ、事故……?」
「ああ。…後味悪い試合見しちまって悪かったな、一条。」
「い、いえそんな悪かったななんて…!」
会場の入り口付近で不動峰ご一行に無事に追い付いて軽い挨拶を交わし、事情を聞いてみれば…伊武くんと神尾くんと桜井くんと石田くんが乗ったタクシーが来る途中で事故ったとのこと。橘さんは聞かされてなかったらしく、山吹中のあ…あくつ?さんに聞いてそれを知り、棄権したそうで。
(だから…違和感を感じたんだ…)
事故れば当然動きも鈍くなるに決まってる。というか、事故ったのに試合にでる事自体すごく危険な気がする。
とりあえず何故か私に困ったように頭を下げる橘さんに慌てつつ、頭を上げてもらい伊武くん達と向き合った。
「……どうして、言わなかったの…なんて、聞けない。」
「…一条さんなら大体の理由解りそうだもんね。」
「そうね、伊武くん。不動峰は勝ち残る…だから、棄権なんて出来ない。橘さんに迷惑はかけられない…って、ところ?」
「…ほらね正解だ。」
結局迷惑かけちゃったけど。
そう自嘲気味に呟いた伊武くんに、私は思わず手を上げた。
直後響く、ぺちんと軽く叩かれるような音。
頬を叩かれた伊武くんを始めとする不動峰のみなさんは私をびっくりしたような目で見つめていた。
「一条…さん…?」
「ごめんね、伊武くん。でも私…少し怒ってるんだよ。」
「、え……。」
「…怪我が、大したことないとは言え事故ったのに試合に出るなんて無謀だよ。ダメージが全くないわけではないんだから…、何かの拍子に試合中に怪我したらどうするの…。」
「そんなの………。」
「憶測の、話に過ぎないかもしれない。でももし、フラついて捻挫でもしたら?骨折でもしたら?それこそこれから試合出れなくて…、橘さんやみんなに迷惑かけちゃうんだよ?」
「…………。」
「それに、……伊武くん達がいつもの調子じゃないと凄く不安になるんだよ…。凄く心配なの。それは私だけじゃなくって、橘さんや杏ちゃんやみんな感じるんだよ…?」
「………っ。」
「私が、でしゃばるなって思われるかもしれない。でも、これだけは言わせて。」
「……?」
「…迷惑かけるのが、"仲間"じゃないのかなって私は思う。」
(私が"仲間"を語るなんて、滑稽かもしれないけど…)
でも、"仲間"を失ってない伊武くん達だからこそ、不動峰だからこそ言っておきたかった。
暫くシーンとした空気に包まれ、あー…しまったまた言い過ぎちゃったかなぁという不安にも包まれて、なんとなく俯く。
するとふわりと頭を撫でられる感覚がした。
あれ?と思って顔を上げると、申し訳無さそうに手を延ばす伊武くんが目に入る。
「い、伊武くん…?」
「………ごめん。心配かけて、ごめん。」
「え、」
突然の謝罪に目を白黒させていると、神尾くん達も続けて謝ってきた。
「一条さんごめんね!」
「ごめんな、一条。」
「悪い、一条。」
「ちょ、えぇぇ落ち着いてみんな。とりあえず解った、私はもう怒ってないから…!私こそごめんね。あとその言葉は、私より先にもっと心配かけた橘さんや杏ちゃん達に言わなきゃ。」
困ったように笑えば、伊武くん達は橘さん達に謝っていた。橘さん達はもうヒヤヒヤさせるなよ、と笑っているのでとりあえず一件落着の模様です。
ほっと一息つくと、伊武くんに「ありがとう」と綺麗に微笑まれて少しドキリとしました。
神尾くんも「ほんと、ありがとう!」とニコニコ言ってくれたので、あぁ良かったという気分倍増です。
杏ちゃんは「やっぱり美里ちゃん大好き!」と抱き着いてきたから、嬉しかったです。
橘さんは嬉しそうに私の頭を撫でてくれ、「次は楽しみにしててくれ」なんて言うので…、暗い気持ちを隠して微笑みました。
「楽しみに、しています。」
(ああ、でも本当は…これで不動峰のテニスを観れなくなるんです…)
そこだけ心残りだ、なんて。
エゴに蓋をして、病院へ向かう不動峰ご一行を笑顔で見送りました。
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