女神と都大会16




不動峰を見送り、また歩みを進める。別れを惜しむ前に私には今日の試合を全力で楽しむというミッションが残っているのです。
そうして歩いていくうちに「美里さん!」と馴染みのある声に呼び止められた。立ち止まって微笑みながら振り向くと、そこには試合を終えたのか首にタオルをかけた観月さんがいて、彼もまた微笑んだ。

「観月さん!こんにちは。」
「美里さん、お会いしたかったです。んふふ、奇遇ですね。」
「すみません、今朝顔を出せずに…。私も会えて嬉しいです!」
「良いですよ、美里さんもお知り合いが多くて忙しいでしょうし。こうして会えただけで僕も嬉しいです。」

にこにこと微笑む観月さんにさらりと髪を撫でられて、少し照れてしまう。太陽を背負って立つこの人は相変わらず王子様みたいです。
(それにしても今日は一層と朗らかだなぁ………試合…あ、そうか試合が終わってスッキリしてるのかな?)
確か聖ルドルフは氷帝と5位決定戦だったはずだ。時間枠的には今ちょうど終わって一息ついた頃だろう。

「ところで観月さん、5位決定戦きっともう終わったんですよね…?お疲れ様でした。」
「ありがとうございます。」

一拍おいて、観月さんは少し寂しそうに笑いながら結果を教えてくれた。

「負けてしまいました。」
「そう、だったんですね…。(サッパリとしてるけど、やっぱり寂しそう……)」
「全国大会常連の氷帝はやはり強かったです。跡部君と当たりましたが惨敗でした。ふふ、情けない限りです。」
「…でも、きっと、観月さんは100%の力だったんですよね?すごく、表情がサッパリしてて素敵です。氷帝は強かったと思うんですが、それでもデータ採取して、ゲームを考えて、部員を鍛えて…その努力と姿勢が、見える気がします。」

聖ルドルフは素敵なマネージャーに恵まれましたね、と観月さんの手を握ると少し泣きそうな顔で観月さんも手を握り返してくれた。

「……勝つ気だったんです。」
「ええ。」
「そう思って戦えた事がとても楽しかったです。良いですね、テニスは。もう少し…頑張りたくなってしまいました。しばらくは後輩指導に熱が入りそうです。」
「良いことじゃないですか!そうして来年、また一段と強くなって面白い試合をしてくれるのを、私は……楽しみに、してます。」

(例えその来年に、私がいないとしても…)
それでも、期待したいと思う。彼と彼らが楽しくテニスをしてくれる事を、私はとても楽しみにしたいと思った。
私も少し泣きそうになりつつも言葉を発すると観月さんは、

「後輩の未来に、託しますよ。」と、とても良い笑顔で答えてくれたので聖ルドルフはもっともっと良くなるだろう。

「えへへ、楽しみですねぇ〜。」
「んふふ、美里さんもよろしければ今度ルドルフに遊びに来てくださいね。喝を入れてやってください。(学校でも会いたいんですよねぇ…)」
「喝だなんてそんな!でもお言葉に甘えて、…今度差し入れ持って行きますね。」

その今度がないものだと分かっていても、未来の話をするのはとても温かい気持ちになれました。


*****

さて…と、と立ち上がり辺りを見回す。観月さんはこの後ミーティングやら何やらで忙しいらしく、私の頭を頭をひと撫でして「では、また。」と去って行ってしまった。
ということで私は不二さんを探し始めました。(いや、いい加減合流しないとね、誘われた身だし…返信こないし)
もしかしたら探されてないのではと不安にはなるもののとりあえず会いたいので探す。この際、不二さんに限らず青学の人でも良いと思いつつ探していると、木陰でファンタを飲む青学ジャージの少年を発見した。

ラッキー!と心の中で千石さんの真似をしつつ少年に話しかける。

「こんにちは、ごめんね、少し聞きたいことがあるんだけど…。」
「何?」

顔を上げた少年と、目が合った。
その瞬間目の奥で白い光が弾けた気がして、ふらりと足元が揺らいだ。

(え……何、どうして……?)

理由は解らない。でも何か大切なことを忘れてる気がする。
そうこう、自分の中で葛藤してるうちにしびれを切らした少年がもう一度「何?」と問いかけてきた。
私はようやくハッとして、少年の方を改めて見る。

「あ…ご、ごめんなさい、ボーっとしちゃって。青学の人たちってどこら辺にいるか、君わかる?」
「それならあっちの方にみんな集まってると思うよ。」
「そっか、ありがとう。休憩を邪魔しちゃってごめんね。」
「別にいいけど。」
「じゃあ、残りの試合頑張ってね…越前リョーマ君?」
「……っ?(なんで俺の名前知ってんだ?)」

名前を当てられておどろく越前君。だがしかし私は青学の試合をずっと見てきてるから普通に知ってるだけである。その事を伝えると「なーんだ、ビックリした。」とさして驚いてない口調で返ってきて、小憎たらしい子だなと思った。

「俺とジャレてないで早く行ってきたら?もうちょっとで休憩終わるよ。」
「あっ、それはマズイね。じゃあそろそろ行こうかな…助かったよ、越前君!じゃあね!」

休憩終わる前に不二さんに会わなければと教えてもらった方向に駆け出す。
そんな私はもちろん、「じゃーね、一条センパイ。」と笑みを浮かべた越前君に気づく術もなかった。


(期待をかけるそして駆ける)



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