女神と都大会18
なんと、驚くべきことに決勝戦は山吹中とでした。…いや、冷静に考えたら知ってた。
乾さんと一緒に青学の方々と合流すると、まず桃くんが「一条!久しぶりだな!」と走ってきて、それに続いて手塚さんと大石さんがわざわざ挨拶に来てくれて結局みんなでの試合観戦が始まった。…ものの、私服が私だけなので少し恥ずかしい。
(だってみんなジャージなんだもん…!)
いいなーいいなーと桃くんに絡むと桃くんは「いいだろー!」と言いつつ少し考えるような表情になった。
「桃くん…?どうしたの??」
「(ちょっと待てよ…これってもしかして俺が貸しちゃったりして一条が喜ぶパターンで俺ラッキーなパターンなんじゃね!?)な、なぁ、」
「なになに〜!?美里ちゃんジャージ着てみたいの!?俺が貸してあげるにゃ!」
「え、いいんですか!?いやいや、でも菊丸さんも使いますし私は部外者ですし…。」
「俺ももう次は試合だし、試合中はジャージ脱ぐからダイジョーブイっ!預かってるってことにして着ちゃって!」
「(英二先輩に先越された!!!!)」
考え込んでる桃くんは煮詰まったのかショックを受けた顔で私を見てきたので疑問に思いつつ、「ほいっ」と菊丸さんから差し出されたジャージをにこやかに受け取った。ちょっと憧れてたのでさっそく腕を通してみる。
「うわ〜!ありがとうございます、菊丸さん!」
「全然いいにゃ!美里ちゃん似合ってる〜!」
「(気を取り直せ、俺…まだチャンスはこれからだぜ!)これで一条も青学レギュラーだな!」
「いやいやいやいや、そんな、私なんかが恐れ多い…!」
「おや?面白そうなことをしているね、一条せっかくだから一球打っていくかい?データはしっかり取ってあげるよ。」
「い、乾さん…遠慮しておきます、ラケットもシューズもないですし、リハビリ中なので。(突然ニュって出てきた…!)」
「それは残念だ。」
なぜか乾さんも加わってわいわいしてると、不二さんたちの試合がどんどん進んでいってしまった。しかもさすが山吹のダブルス、さっきも千石さんから説明受けてたけど強い。
「山吹強いですね〜」と言うと、「全国常連だからね」と乾さんが苦笑した。そんな会話をしているうちに青学は負けてしまい、代わりに菊丸さんと大石さんがコートに入る。
「やっぱり…青学はゴールデンペア以外のダブルスがネックですか?」
「それは否定できないな。みんな個性が強すぎて個々が勝ってしまうからね。」
「……個々が勝って…かぁ…。でも乾さんとかダブルス器用にこなせそうですけど…。」
そう言いながらチラリと乾さんを見上げると、口元に興味深そうな笑みを浮かべて乾さんは先を促す。
「ほう?それは興味深いな。」
「だって乾さんってデータをちゃんと取れる人じゃないですか。それって一歩下がってみんなの事を見てないとできないことですよね…?だからダブルスの試合でも一歩下がって判断しながらゲームメイク出来るんじゃないかなぁって、思うんです。」
「……そう言われてみれば、そうかもしれない。あまり考えた事がなかったが…そうか、一条からはそう見えているのか、非常に有意義な意見だ。」
ありがとう、と優しく呟くような言葉とは裏腹に乾さんの手はものすごいスピードでノートを書いていたのは触れないでおこう。
本当すごいスピードだわ…と思いながら乾さんの手元を見つめてると、ふいに隣に来た手塚さんに頭を撫でられて。見上げると手塚さんの目元は優しげに細められた。
「一条はよく人を見ているな。」
「え、そうですかね……?自分じゃよく分からないですが…。」
「誰しもそういうものだが、そういった所が君の魅力なんだと俺は思う。」
「ふふ、ありがとうございます。」
「(今日の一条はいつもに増して朗らかでかわ…いや、何でもない)ところで一条、ジャージが似合っているな。」
「お世辞でもありがとうございます。手塚さんに褒められると、照れちゃいますね…!」
「(世辞などではないのだがな……)」
お世辞とはいえ褒められて上機嫌の私と、データ採取をしながらも解説をしてくれる乾さんと、それを見守りつつ時たま優しく話しかけてくれる手塚さんと。コートの中では熱気に包まれた試合が行われてる一方、フェンス一枚隔てたこちらでは和やかなムードで乾さんや手塚さんとお話ししながら観戦ができました。
*****
そして迎えた3戦目、桃くん対まさかの。
「せ、千石さん…!?」「あっ、美里ちゃんだー!応援よろしくね!」
一条と千石は知り合いだったのか、と驚く乾さんと青学の皆さんを横目にコートの中から手を振る千石さんに苦笑いしつつも小さく手を振り返す。桃くんはマジかよみたいな顔でこっちを見てきたので、こちらにも苦笑いで対応しておいた。
そうして始まった試合は、なるほどどちらも曲者というだけあって駆け引きやら何やらでとても面白い。
(でもちょっと上手く決まる度に私の方にスマイルを向ける千石さんがほんの少しうっとうしい……。いや、どっちも応援してるけれども)
いつの間にかクールダウンを終えて隣に戻ってきた不二さんも、流石に露骨な千石さんのアピールに少し笑っていた。
「千石はよっぽど美里ちゃんを気に入ったみたいだね。」
「そうですねぇ…何でですかね……ははは…。」
「くす……ねぇ、美里ちゃん?」
「はい………っ?」
不二さんに呼ばれて顔を上げれば、突然ぐっと肩を抱かれた。あまりにも突然すぎてびっくりして言葉も出なければ、ぐっと突き放すこともできない。
そんな私とコートの千石さんを見比べて、不二さんはくすりと綺麗に笑った。
「千石、すごい顔してたよ。」
「けしかけるために私を使わないでください…!!恥ずかしいです!」
突然何をと思えば、千石さんの様子を見て楽しんでた模様の不二さん。私はというと抗議しつつそっと距離を置いた。なんという心臓に悪いことをしてくれるんだ、この人はと見上げながら目で抗議する。
「(くすっ、そんな上目遣いされても可愛いだけなんだけどなぁ…。でもここで警戒されたくないし…)びっくりさせてごめんね、美里ちゃん。ちょっと虫がいたから思わず抱き寄せちゃった。」
「え……?あ、む、虫がいたんですね!すみません勘違いしちゃってて!ありがとうございました。」
「どういたしまして。」
(何だ…千石さんに見せつけたのかと思った……。虫がいたからだったんだ……。勘違いしちゃって恥ずかしいわ…!)
この自惚れ頭め!と自分を戒めてるうちにいつの間にか試合は終わっていて、越前君と白い頭の人がコートで言い争っていた。(怖い)
何かしらの因縁対決なんだろうか…?と思ったところで、不意に、足元が崩れる感覚がした。思わず近くにいた不二さんの腕を掴んでしまう。
「どうしたの、美里ちゃん…?」
「あ、す、すみません。ちょっとふらついちゃって。」
「体調悪い?少し休んでる?」
聞かれて体調悪いのかなと考えてみたけどさっきのは一瞬で、もう元気だったので笑いながら不二さんから離れた。
「いや、もう元気というか…本当に一瞬くらっときちゃっただけなので大丈夫です。」
「そう、それなら良いけど…でも少し心配だから椅子とかドリンク持ってきてあげるよ。」
「そんな、不二さんこそ試合終わってお疲れなのに申し訳ないです!」
「僕はいいんだ、美里ちゃんのこと心配したいだけだから。ね、ちょっと待っててね。」
「あ、ありがとうございます…!(なんて優しいんだ不二さん…!)」
そう言って去ってしまった不二さんを止めるすべもなく見送って、私は再び試合に目を向けた。コートでは越前君と白い人が物凄い戦いを繰り広げている。
すごいなぁ、面白いなぁ、と思う一方で何故か私はその戦いに既視感を感じていた。いわゆる、デジャヴというものである。
(どうしてだろう…?この2人の試合、見たことあるはずがないのに……)
でも確かにどこかで見たような違和感が拭えない。頭が、脳が、記憶が必死に警鐘を鳴らして思い出させようとする気持ち悪さにどんどん血の気が引いていくのを感じる。
なのに、試合から目を反らせない。
(何これ……も、頭いたい…でも試合、見ていたい……違う………みて、おもい、ださないと…っ。)
それでも身体に限界がきたのか、今度こそ意識ごと足から崩れ落ちそうになるのと、異変に気づいた手塚さんが駆け寄るのはほぼ同時だった。
(思い出して、思い出してと、誰かが叫ぶ)
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