春の幻




思えば、本当にあっという間だったと思う。

こんな世界消えてしまえばいいと思っていた、あの日の教室の私が懐かしくすら思えるほどに。実際消えたのは世界ではなくて『私』だった訳だけれども、私からしてみれば世界そのものがごっそり変わっているから、消えてしまったようなものだ。


(とはいえ、もう終わりかぁ……)

などと思い返しながらもう一人の『私』に向けてノートをまとめる。もっとちゃんとみんなにお別れを言っておけば良かったと思わないでもないけど、まあ明日からも私は存在してるし上手くやってくれるだろう。
でもこのノートを見る事で彼らとの関係が少しでも続いてくれれば良いとは思うけれども、そればっかりは私にはどうしようもないし『私』がどう捉えるかもわからないし、いかんせん、

「私にはどうしようもできない事ばっかりよね…。」

考えてた事がそのまま声に出た。相変わらず守おじさんは出張中なのでこの独り言を拾ってくれる人はいないのだけれども。

(ところで…こっち来るときは何かものすごい引力に引っ張られるような感じだったけど帰るときもそうなのかな…?)
あくびしてシャーペン拾って問題とこうとしたら『私』の声がきこえて頭痛くなって…とこっちに来た経緯を思い出してると溜息が出た。できればもうあんなジェットコースター乗ってるような感覚は味わいたくない。私は絶叫系は得意な方ではないのだ。

そんなこんなでいつの間にかノートもまとめ終えて、『私』に対しての手紙も書き置いておいた。本当に楽しかったから、これで暫く前を向いて生きていけそうなので、こっちの『私』もぜひ頑張って欲しい。
(…少なくともこの世界に生きる貴女が羨ましいからね、私は。)

どうか戻った先でも強く生きていけるように、ここでもらった優しさをいっぱい補充して帰ろう。
そうして、もう一度、頑張ってみよう。もう自殺防止トリップなんかに頼らなくても良いように。

それでもベットに入ると寂しさが押し寄せてきたので、沢山の楽しかった事を思い出しながら眠る事にした。




――ふいに、
ぐらりと深い眠りに引っ張られる。

何処までも沈み込む意識に抗う術などなく、
幸せな時間は私をとりこにして消えてゆく。

胸の痛みを伴いながら足音を立てて近づいてくる約束の時。
瞳を閉じて漂いながら、一番最初に思い出すのは儚い夢のような時間。
願うだけじゃ伝わらないくらいにこみ上げる気持ちを抱いて、本音を零して、掬って、救われて。
そうしてできた絆が、ひとつひとつこの手を離れていく感覚に陥る。

――それでも忘れないから
春の終わりの日差しが揺れる、消えゆく幻に一緒に並んでいたことを


こうして、私の1ヶ月間の『自殺防止トリップ』は幕を閉じたのであった。



春の幻
(さようならば、仕方がない)
(サヨナラ世界)



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