邂逅




目を覚ますと、そこは、分かりやすくお花畑でした。



自分の事は思い出せる。身体は、と確認すると薄っすら透けていたので、ああ死んだのかもとなんとなく思う。

(あー…水の流れる音…川……三途の川ってやつか…こっちはどっち側…?)

などと考えつつ、どうすればいいのか分からずボーッとしていると、フッと目の前が白くなった。何気なく目線を上げると、金髪碧眼でイケメン、おまけに長身の男性が真っ白の服に包まれて立っている。

(誰?この人……天使ってやつかな…?)

彼は私を見つめてにこりと笑うと、「こちら側はまだ現世ですねぇ。そして残念ながら天使ではないのです。」と言葉を発した。


「(んん?心が読まれた?)え、はあ…そうなんですね…。」
「ところで私のこと、ちゃんと見えてます?」
「あー、見えてますけど…。」
「それなら良かったです。もうちょっとお待ちくださいね、もう一人来るので。」


そう言われるや否や、隣にふわりと人が降り立った。視線を向けるとそこには見覚えのある制服に包まれた……



「「私!!????」」



(はっ?え?どういうこと??)

そこに立ってたのは、正確には「私」ではなく、1ヶ月お試しトリップで入れ替わった『わたし』である。お互いがお互いを指差して何で?という疑問符に満ちた顔をしている辺り、向こうも理解が及んでないのだろう。唯一答えを知ってそうな金髪碧眼さんに目を向けると、ニヤニヤ笑いながら挨拶し始めた。


「狭間の世界へようこそ、お嬢さん達。私の名前は…そうですね、支配人とでも呼んでくだされば分かりやすいでしょうか。少しの時ですがどうぞ宜しくお願いします。」
「支配人…って………あ!もしかして1ヶ月お試しトリップ!??」
「おや、ご名答です一条美里様。先日は我々の試みにご参加いただきありがとうございました。ですが、まあ物の見事に結果は見ての通りになってしまいましたが………一応、自己紹介しておきます?お名前と軽く死因をお願いします。」

(死因かぁ…やっぱり死んじゃったんだなぁ…)
わずかな感傷に浸るものの、ニッコリと金髪碧眼さん改め支配人さんに先を促され、口を開く。

「じゃあ私から…。一条美里です。死因はいじめとDVからの飛び降りです。もう一人の『わたし』とは初めましてになるのかな?よろしくね。」
「私も、一条美里よ。死因は校内のいじめと暴力から飛び降り。この前は変わってくれてありがとね、もう一人の一条さん。」

鏡の中のようなもう一人の『わたし』が手を伸ばしてきたのでそっと握り返すと、支配人さんは満足そうに微笑む。彼はパンと一つ柏手を打って話を先に進め始めた。

「さて、自己紹介も済んだところで本題に移ります。お気づきかと思いますが貴女方は現世での命を終えようとしています。しかし我々のプロジェクトが未遂に終わったような形になるのでそれはマズイのです。そこで―――貴女方さえ良ければ、もう一度入れ換わりませんか?」


は?という形に口が開いたまま、数秒が経過した。言われた内容に理解が追いつかず、思わず隣を見ると流石私、同じ顔でぽかんとしていた。
とりあえず気を取り直して支配人さんに向き合うと彼はくつくつと笑っている。


「……気持ちは嬉しいんだけど、私達は一度生きる事を放棄してるの。生き返って入れ換わるだなんてルール違反にならない?」

と、隣の『わたし』が問いかけると、支配人さんは笑みを一層深める。

「大丈夫、貴女方は実はまだちゃんと死ねてないのです。あそこに三途の川が見えますよね?こちら側はまだ現世になるのでギリギリ生きてる状態です。」
「(ああ、そう言えばさっきそんなこと言ってたなぁ…)なぜ、まだこっち側なんですか?」
「…実はこのタイミングで貴女方が死ぬ予定はなかったのです。なので、まだ、間に合います。」
「間に合う…?」
「そうです。入れ換わっていただいて貴女方が望む世界で生きて頂く事が、この"自殺防止トリップ"というプロジェクトの成功になるのですよ。そこにルール違反だの何だのはありません。御安心を。」

(そうか、よくよく考えれば自殺者を減らす為の企画?な訳だから、ここで入れ換わるのも全然セーフなのか…)

「そう、最終的に自殺者が減れば良いのです!ちなみに今回入れ換わった後は死ぬまでそちら側で過ごして頂きます。貴女方が元々いた世界の記憶は上手く消して、"自分は入れ換われた幸せ者だ"という記憶だけ薄っすら残して差し上げます。…どうでしょう、悪い話ではないとは思いますが。」

そう言われて考えてみれば悪い話ではない気がする。ほぼ衝動的に飛び降りてしまったわけだけれど、当然もっと生きたかったし未練はある。どんな未練かなんて言うまでもなく、勉強で評価されない世界で自由に好きに生きたいという事とあのトリップの時にできた絆をもう一度手繰り寄せたいという事だ。


(世界のルールにも反していないどころかそれを求められてて、私達にとっても良いことばかり……)

(このチャンスを逃したら、絶対私は来世まで後悔する)


答えが決まるまでは早かった。
隣を見ると同じタイミングで顔を上げた『わたし』と目が合う。その決意に満ちた表情から、どうやら考えたことは同じらしい。


「私は賛成です。もう一度あの世界で生きたいです。」
「私も賛成。もう一度やり直せるなら全力でやり直したい。」

私達の同意を聞いた支配人はそれはそれは満足そうに微笑んだ。

「ありがとうございます。では、さっそく貴女方が生きて行く世界に戻ってもらうとしましょう。」
「戻り方は…?」
「今から出すゲートを同時にくぐって下さい。二人の記憶の共有と書き換えを行いつつ魂を現世へ戻します。挨拶があるならここで済ませて下さいね、次死ぬ時まで二度とここには来られませんから。」

そう言いつつ彼がパチンと一つ指を鳴らすと、目の前に大きな扉が現れる。ギギギと開いたその向こうは、白い光に満ち溢れていてとても眩しい。
目を細めつつも私は『わたし』に向き直り手を差し出すと、すぐ握り返されて笑顔が返ってきた。

「チャンスを受け入れてくれてありがとう、わたし。あの時呼び寄せてくれたのはあなただよね?私、自分に希望が持てなかったけれど、あなたのお陰で毎日が楽しい事を知ったの。本当にありがとう。」
「お礼を言うのは私の方よ。私の声を受け入れてくれてありがとう。貴女が生きられなかった世界で私は強く生きてみせるわ。貴女も『私』を頼んだわよ。」
「もちろん、任せて。」

お互い微笑み合い、ひと段落ついたところで支配人に向き合った。

「支配人さん、こんな素敵なチャンスをありがとうございます。絶対に活かして楽しく生きます。」
「支配人、ありがとう。大切に生きるわ。」
「準備はもう宜しいですか?」

「「はい。」」

「では、人生を楽しみきった貴女方とまた出逢えるのを楽しみにしております。この度はご協力ありがとうございました。―――いってらっしゃいませ。」


ふわり、と背中を押されて扉の向こうへ飛び込むと、終わりの見えない底へ底へと落ちて行くような感覚に包まれた。

周りは真っ白な光で、一緒に落ちたはずの『わたし』ももう見えない。
白い白い光に包まれて意識が遠のいていく。








――願わくば、次に来る世界は

―――貴女も私も、幸せになりますように



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