そんな小さな変化:氷帝の場合 (side:忍足)
最近、宍戸が調子良いと思う。
いや調子こいてる的な意味じゃなくて……まあ、正直若干そんな気もするけど……とにかくそっちじゃなくて、それなりに、テニスに真面目に打ち込んでいる。気がする。
まあ奴とて氷帝レギュラーまでの長い道のりを登ってきた訳だからそうある姿勢は正しいわけだけど……。
「なんや、納得いかへん」
俺はコートの脇で呟いた。
「アーン? 何が納得いかねぇんだよ」
その呟きは基礎練や打ち込みが終わり、汗を拭う跡部によって拾われた。
ほんま腹立つほど汗も滴る良い男やな、と口にしたいのを我慢して跡部の問いに答えを返す。
「やってさー、宍戸最近急にやる気だしたと思わへん?」
「大会が近いからだろ」
「でも最初の方は俺らは相手せぇへんやん?」
氷帝は都大会まではレギュラー温存方式だ。だから急にやる気が出るものでもないはず、なのだが。
「……宍戸なりに何か思うことでもあったんじゃねぇのか」
「思うこと、ねぇ……」
人ってそんな簡単に変わるんやろか?
甚だ納得がいかない。自惚れはそう簡単に拭えるものじゃないのに、と。
さも言いたげに跡部を見遣ると面倒くさ気にあしらわれた。
「気になんなら宍戸本人に聞けばいいだろうが」
「それも何だかなぁって感じやん。下手に訊いてやる気損ねてしもたら、元も子もないやんか」
「お前は相変わらず変に空気読むな……まあ宍戸のことなんざ俺は知ったこっちゃねぇし、練習に戻る」
「冷たいやん跡ー部ー。景ちゃーん。……アカン行ってしもた」
じゃれあって呼び止めてみたものの相手にされず、思わず小さなため息が出た。跡部ですら分かっていないものを自分が解明できるわけもないし、宍戸の件はお預けやな、と面白みのない結果になってしまった。
ジト目で見てやろうかと視線をコートに移せば、跡部が早くも樺地と練習試合を始めるところだった。
ちゅーかコート着くん早ない? いつから瞬間移動まで身に付けたんやウチの王様は。
そういえば、この間まで跡部も大分疲れてやつれていたはずなのに、いつの間にかケロッといつもの跡部に戻っていた。というか憑き物が取れたような感じもする。当の跡部は今まさに相手コートに一段と鋭いスマッシュを叩き込んだところだった。ちょっと待て、跡部も最近調子がいい気がする。というか絶対良い。
なんだかなぁ……俺だけ置いてけぼりやんか。いや寂しいとかそうゆうんちゃうけど。なんちゅーか……いや、俺も頑張ればええ話やんな。
物思いにふけっていると遠くから駆けてくる相棒から声がかかった。
「ゆーしーーっ! 試合やろーぜ!」
ああ、ほら岳人が呼んでいる、と俺はラケットを持って駆け出した。
俺かて、大会に向けて気合入っとるっちゅーの。
何かが変わる、そんな日。
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