そんな小さな変化:立海の場合(side:柳)
人が変わると云うことはそれなりに難しいものだ。と思う。
特に丸井は意外と曲者で、単純そうに見えて頑固な一面もあり、データ上ではそう簡単に変わるような者ではない。
女子から黄色い声をあげられることや「ブンちゃん」と無闇やたらに呼ばれることも、そんなに好きではないはずなのに、大量のお菓子を手に入れられるからという理由でにこやかに受け入れている。まぁ単純にモテているという感覚に浸りたいというのもあるとは思うが。
要するに、部活の休憩中にフェンスの方に行き、女子からお菓子を貰ったりという事は日常茶飯事だった。
しかし、今はどうだろうか……。
俺はノートとシャーペンを手に、コート上の丸井を見つめた。
彼は最近どんなに女子に呼ばれようが、お菓子を差し出されようが、それに釣られないしお菓子は受け取らない。
そして今までは何処か不安定なテニスをしていたが……それも、なくなった。
真っ直ぐに、真剣に楽しそうにラケットを振る様子はしっかりとしている。
勝率も上がっているし、良い事と言えばそうなのだが。
「如何せん、気になるものだ」
「……? 柳君、何か気になることでも?」
零れた呟きは紳士な柳生が拾った。
「いや、最近丸井の勝率が良いなと思ってな。スイッチが入ったかの様にテニスにのめり込んでいるんだ」
柳生はチラッと丸井に視線を移し、意味深に口元を緩めて笑んだ。
「素敵な出逢いでも、あったのでしょうか」
「……唐突だな。なぜそう思う」
「可能性の一つですよ。良い人に出逢うと、意外と簡単に意識は変わるものですし」
私も実際そうですしね、と嬉しそうに呟いた柳生を問い詰めようとしたが、仁王と試合をすると言って行ってしまった。
良い人……か。
一体柳生は誰と出逢ったのか。そういえば柳生の勝率も最近上がっている。
一時期は精市を心配し、落ち込んでいたはずなのにいつの間にやらどうしたことか。
活き活きとテニスをしている柳生に、もう心配はいらないだろう。
よほど良い人に出逢ったのか。……となるとやはり丸井も?
丸井に視線を戻せば、その向こうに弦一郎と試合する赤也が見えた。
そういえば赤也も比較的調子が良い。
あの目薬を買ってきた日からだから、目薬が効いているのか又はコイツも良い人に出逢ったのか。
……いや、どちらもかもしれんな。
フ、と軽く笑ってノートを置けば試合を終えた丸井に、次は俺と試合やんね? と誘われたので了承しておく。
まあ、最近良い変化が訪れているとは思う。
例の3人を中心にレギュラー全体ないしは部全体の士気があがっているのは事実だ。
よく解らないがとりあえず「良い人」とやらに感謝しておくべきだろう。
絶対にいつか解明してやる、と俺は少し強くラケットを握ったのだった。
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