隣の席の丸井君。




今日も朝から隣の席のうるさい赤髪に絡まれた。

「美月〜菓子くれよ〜!」
「イヤだ」
「この前はくれたじゃん! いま腹減って死にそうなんだよぃ!」
「この間のは気分だもん。そんなに毎回あげてたら丸井君太っちゃうじゃん?」
「太らねーって! 美月のケチ!」
「なにそれ、ブタ予備軍になっても知らないからね!?」

朝からケチだのなんだの言われてカチンときて言い返してしまい、ぎゃんぎゃんと言い争いを続けていると、クラスでもかわいい子が固まっているグループが丸井君に声をかけに来た。

「ブン太くーん! クッキーたべるぅ?」
「こっちにたくさんお菓子あるよぉ」
「ほら、他の女子呼んでるよ? ブ・ン・太くん?」

そう言って丸井君を追い払おうとすると、彼は唇をむすっとすぼめて頬を赤く染めた。あれ、怒らせたかな? もしかして「ブン太」が「ブタ」に聞こえたかな? 思わずひやひやする。しかし丸井君はおもむろに手をひらひらさせて別方向に体の向きを変えた。諦めてくれたのかもしれない。

「……ちぇっ、今日はもういいや。美月、今度は菓子くれよ!」
「気が向いたらね〜……ってもういないし」

言うが早いが丸井君はお菓子を求め女子のほうへ駆けていったのであった。一応言っておくけど、私は丸井君のためを思って疲れてるときだけお菓子をあげている。毎日女子にもらってるから、そのうち本当に太るんじゃないかと心配してるからだ。それに、毎日毎日あげてるとなんか餌付けしてるみたいで嫌だし。
チャイムが鳴って私の隣の席の赤髪が大量収穫で帰ってきたのを横目で見て、少し心がズキッとしたけど気づかないふりをする。私はただの隣人だからね。




そして次の日の朝も同じように絡まれたけど、ちょっと丸井君の様子がおかしいかった。

「おはよ〜、美月……」

何かテンション低い声が聞こえて横を見ればどんよりと疲れた丸井君がいた。珍しい。

「お、おはよう? 丸井君」

「お〜……」

何なんだその間延びした喋り方は。どうも調子が狂ってしまうではないか。どうしたんだろう……と考えて、さっき見た幸村くんの顔が光り輝いていたことを唐突に思い出した。そうだ、あれは確実に部員をいびってきた顔だった。色々と察したので、私は鞄から飴を数個取り出して丸井君にあげることにする。

「はい、どうぞ」
「お、おう。サンキュー……今日はくれるのな」
「だって丸井君、疲れてるし」
「………?」
「疲れてるときならお菓子あげるよ。丸井君にお菓子あげるのが嫌だってわけじゃあるまいし、ね」
「じゃあいつもは?」
「だって、いつもお菓子食べてると太っちゃいそうだし。体に悪いでしょ」
「ああ……まあ」
「……それに、餌付けしてるみたいで、なんか嫌だし」
「………っ!?」
「ほら、飴ならすぐ食べられるしどーぞ!」

話ながら温度が上がっていった顔を隠す様に、「たくさん種類あるから好きなのもっていってね!」と、じゃらじゃらと机の上に飴を広げる。すると突然、丸井君はすごく嬉しそうに笑いながら飴と、飴を広げてる私の手をとって

「ありがとな! これからも、疲れてるときは美月に頼るからシクヨロ!」

と言い出した。うわ、良い笑顔すぎる。イケメンが笑むと色々やばい。なんだこれなんか照れる。定まらない思考の中、なぜか若干テンションが上がった私はにこりと笑いながら、

「復活してくれて良かったよ。じゃあ、飴は常備しておくね」

と返しておく事しかできなかった。

丸井君は私がむやみにお菓子をあげない理由を分かってくれたんだと思う。それがなんだか無性に嬉しかったのは秘密にしてやろう。でもまあ、たまにはこんな日もありかな。今日もうるさいけどカッコいい赤髪の隣で楽しい1日が始まる。


隣の席の丸井君。

(おいしい飴を探しておかなければ!)






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