俺の隣の席のアイツ。




俺の隣の席のアイツはすっげえ良いやつで、優しい。
ちなみに良いやつっていうのはいつもお菓子くれるやつって意味じゃなくて、俺が疲れてるときに、その時に必要な物を的確にくれるやつって意味だ。ちなみにそのことは最近知ったばっかりだけどな。小腹が減ってたらクッキーくれるし、授業直前だと飴だし……とにかく、俺のことよく知ってるつうかアイツといるとほっとするんだ。周りのキャピキャピした女子みたいに騒がないしな。

でも、たまにもう一歩近寄りたくなる。
隣の席じゃなくて、ほんとに隣にいたくなるんだ。

あーでも、未だに名前で呼んでもくれないし脈なしだろぃ。どうして他の女子たちはブンちゃんだとか何とか呼ぶくせにアイツだけ呼んでくれないんだ。何でいつまでたっても他人行儀に「丸井君」とか呼ぶんだよ……。などと悶々と考えながら朝練を終えた俺は教室へと向かう。いつか名前で呼んでくれるといいなと思いつつ、今日もアイツとたくさん会話できる事を楽しみに教室の扉をくぐった。




*****




「おはよっす」


いつものようにアイツに声をかけると、いつもなら元気ににこにこと返事してくれるのに今日は違った。


「おはよぉ〜……」
「……なんか今日フニャッとしてね?」
「してないよぉ〜……」
「いや、どう見たってしてるだろぃ。なんか顔も赤いし……風邪か?」
「う〜ん分かんない……。頭は痛い……」
「熱は?」

言いながら手の平をあいつのデコに当てると、それはまあ、熱かった。顔見てそんな気がしてたけどな。

「思いっきり風邪じゃねえか! ちょっ、なんでこんなになってまで学校来てんだよぃ! 大丈夫か?」
「喉も痛いぃ〜……」
「喉、のど……ちょっと待ってろぃ」

確かカバンにのど飴があったはずだ、と探して今にも倒れそうなアイツに渡すと、赤い顔でへにゃっと笑って、

「ぁあ……ありがと〜ブン太く〜ん」

とお礼を言って……って、えぇぇえええ!? なぜ、今! 名前!? まさかこのタイミングで名前で呼ばれるなんて。しかも赤い顔と熱のせいで微妙に色っぽい声のオプションつき。心臓に悪い。でもこれはこれで今日1日幸せでいられそうな気がするけれども。思わずテンションが上がってガタンとイスから立ち上がったら、なぜかアイツもふらふらと立ち上がった。


「……? どうした?」
「ほけんしつ……」
「保健室?」
「寝たい……」
「体力の限界きてんじゃねーか、仕方ねえから俺が送って、ってオイ!?」

送っていこうとアイツのほうに一歩踏み出した瞬間、アイツは前のめりに倒れてきた。一瞬焦ったがもちろん俺が抱き止めた。熱があるのかアイツの身体は熱くてフニャッとしていて、抱き止めてる俺もなんかじんわり熱くなってきた。やっべぇ……腕の中に、美月が、と思うというまでもなく緊張してくる。そして不謹慎にもさらにテンション上がっちまった。


「おい、大丈夫か…?」
「……」

問いかけてみるけど返事はないし、もうだいぶ辛いんだろうな。しゃーねー保健室まで送るか、と俺は抱き止めてるアイツをよいしょと横抱きにした。いわゆるお姫さまだっこだ、光栄に思えよ。ついでに周りにいるやつに保健室に行くと先生に伝えるように頼んだ。



*****



「……ん、丸井、くん……?」
「お、目覚めちまったか。もうすぐ保健室だからな」

あと階段一つ分というところでアイツは目覚めた。この状況にちょっと驚いてるみたいだ。

「身体、大丈夫か?」
「私、急に意識がとんで……って丸井君んんん!?」
「どうした?」
「ひっ、お姫さま、だっこ……っ」
「運びやすいからな。あ、わりぃ。嫌だったか?」
「嫌とかじゃなくていやむしろ嬉しいけどその、朝練で疲れてるのに、悪いよ!ごめん!」
「大丈夫だ、ってオイ!?降りようとすんなよ!」
「だ、大丈夫、これ以上丸井君に、迷惑かけれないし、こっからは1人で……っ」

俺から離れた瞬間、アイツはまたフラリと倒れこんだ。すかさず俺は抱き止める。

「だから、危ねえっての」
「ご、ごめん丸井く…ん……?」

こんな状況でも謝ろうとするアイツを俺はさらにギュっと抱き締めた。なにをしているんだ、俺。でもなぜだかこの腕がアイツを……美月を離してくれないんだ。

「ま、丸井君……?」
「ほっとけねえんだよ」
「え……?」
「だから好きなやつ、が、苦しそうなのがほっとけねえんだよ!!」
「は? 好きなやつって……え!?」
「…………」
「…………丸井君……」
「…名前」
「はい?」
「名前で、呼んでくんね?」
「ぶ、ブン太、くん」
「……おう」
「……あの、私、も、好き……です」
「おう。……って、え、マジで!?」
「い、1回しか言いません」
「ちょ、おい!」

いいい今! 好きって、好きって言ったよな!?
誰に確認しても答えなんて返ってこなかったが、1人で喜びを噛み締めていると、美月がぎゅってしてきて俺の心臓もぎゅってなった。うわ、一生分の幸せを使い果たした気分だ。


「ブン太くん、抱っこ」
「ん!?」
「……歩けそうにないから、保健室まで連れていってください。さっきは降りてごめんね」
「お、おう!」

元気に了承して俺は美月を抱き抱える。幸せだ。幸せ過ぎて死にそうだ。熱のせいか甘えてる美月も、このシチュエーションも、そして想いが通じたってことも全部全部、幸せで、その幸せを噛み締めながら保健室へ向かったのであった。





俺の隣の席のアイツ。

(これからは、隣の席の女の子じゃなくって、彼女ってことでシクヨロ!)






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