こぼれ落ちる

バニラアイスはとっくに溶けて、上のほうからドロドロと濁ったメロンソーダは、きっともう炭酸も抜けきっているのだろう。

「もう、またそういうこと言うー」

簓は、放っておくとひとりで永遠に喋り続ける。私はツッコミにすらならない相槌を打つので精一杯だ。それでも簓の話はいつだって面白くて、外では言わないオヤジギャグが何故かプライベートでだけ連発されるのも可愛い。簓が求めているのは相槌やツッコミではなく、ただ私が笑うことだけだと分かっているので、無理にリアクションはせず、面白ければ素直に笑う。
オチがついて一段落したところで、簓はじっと私の顔を見て言った。

「名前は、()ろてたらホンマに可愛いなぁ」

何の脈略もなく放たれたそれに、一瞬ポカンとしてしまう。褒めたつもりなのかもしれないが、それにしては、

「……普段はブスってことか?」

私が真顔で言い返すと、簓は「そんなこと言うてへんやん!」とケラケラ笑った。

「自分、めちゃくちゃ人見知りやろ?俺と知り()うてすぐの頃も、いくらオモロい(はなし)しても全然笑ってくれへんかったやん」

「オモロなかったからやろ」

「ハ!?」

意地悪でそう返せば、簓は本気で焦った表情になるので、すぐ「嘘や、嘘」と付け足した。
ただでさえ人見知りなのに、ひょんなことから今をときめく超売れっ子芸人白膠木簓とお近付きになってしまって、初っ端からゲラゲラ笑えるわけがない。当時も簓の話は面白かったのだが、私は緊張でガチガチだったのだ。
それは以前話したことがあったので、簓も改まって追及することはない。

「でも何回か()うてるうちに、ちょっとずつ笑ってくれるようになってなぁ」

当時を懐かしむ簓は、うっとりと目を細めて、本当に幸せそうな顔をしていた。

「やっと思いっきり笑ったーってときにな、その顔がホンマに可愛らしくて、やっと笑かしたったいう喜びもあったんやけど、なんか、なんやろな、俺、この子のこと好きなんやなぁって思ったんや」

まるで一方的にそう語ると、簓はドロドロになったクリームソーダを啜る。その顔は至って平常通りで、私が聞いたあまりに恥ずかしい言葉の数々は幻聴だったのかと思った。

「は、初耳やねんけど」

「そりゃ、たぶん初めて言うたしなぁ」

「……恥ずかしいやつ」

顔どころか耳まで熱くなっているのを感じて俯くと、簓はそんな私を見て嬉しそうに笑う。

「まーだ恥ずかしがりやさんなんも可愛ぇな」

「もう黙って……!」

自分でそう言いながらも、コイツに黙るなんてコマンドがあるのだろうか、と思ったら簓は案の定「簓サン黙ってたら息でけへんねん」などと答える。簓が言うと真実味があるから恐ろしい。

「でもな、やっぱり笑ってるほうが可愛ぇから、次はこないだ俺がコンビニ行ったときの話や」

「いや、この空気で!?」

突然始まる漫談に私がついツッコむと、

「名前は俺がずーっと笑かしたるから、ずーっと笑顔でおってな」

そう言う簓は既に満面の笑みを浮かべていて、あぁ、簓の言うことが少し分かった気がした。

Fin.

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