ララバイ

寝返りを打つたび、ベットが軋む。簓はそういう人の気配に敏感なのだから、別々に寝たほうがいいと散々言ったのに、頑なに同じベッドで寝ようとするから。私がちょうど十回目の寝返りを打って、簓のほうを向いたとき、んん……と唸るような声が聞こえてきた。

「なに、寝られへんの……?」

見た目には普段通りな顔をしているが、わずかに皺の寄った眉間は、私が簓を起こしてしまったことを表している。

「ごめん、起こした?」

「いや、それはええけど……ていうか割と前から起きとったし」

ほら、だから同じベットで寝るのは嫌だったんだ。毎日忙しい簓は布団に入ればすぐに意識を手放してしまうけれど、デスクワークの私は体力が有り余っているのか、あるいは精神的な問題か、時々こうして眠れないことがある。とはいえ、日の出近くまで引きずるわけでもないし、ましてや明日は休日なので、何の問題もないのだけれど。だからといって、簓の安眠の妨害はしたくない。

「あー……明日休みやし、ちょっと夜更かししよかな」

そう言って身体を起こし、ベッドから抜け出そうとすると、眉間の皺を深くした簓が私の手首を掴み、再び布団の中に引きずり込んでしまう。

「わっ、なに?」

「なにやないわ、気ぃ遣ってんねやろ」

背中に掌の感触を感じたかと思ったら、そのまま抱き締められた。見上げると、むす、と口を尖らせた簓と目が合う。

「別に、そんなんちゃうよ」

「じゃあ俺がまた寝るまではここにおって」

……気ぃ遣ってるのはどっちやねん。そう言い返したいのを堪えて、トレーナーの胸元をきゅっと握ってみると、こっち、と背中に手を回させられた。これでは緊張してしまって却って眠れない。私が身体を固くしていると、背中に添えられていた掌がポンポンと優しくリズムを刻み始める。何が、俺が寝るまではここにおって、だ。寝かしつける気満々じゃないか。
しかも、人をそうやって寝かしつけながら、自分もまたうとうとと夢の世界に旅立とうとしている。器用なやつ、と思いながらその眠たそうな顔を眺めていると、不意にぱちっと目が合って「目ぇ瞑る」と注意された。

「……子供やないねんから」

「ひとりで寝られへんくせによう言うわ」

「寝られへんて、そういう意味ちゃうやん」

「……せやなぁ」

いよいよ生返事しかしてこなくなった簓と会話をするのは諦め、言われたとおり目を瞑る。すると、背中を叩いていたのとは逆の手が、いいこいいことでも言うように後頭部を撫でた。
額を押し付けると、トクトクと、穏やかな鼓動が聞こえてくる。同じようなリズムでも秒針の音はあんなに心を不安定にさせるのに、どうして簓の心音となればこんなに落ち着くのか。
いつの間にか、背中に添えられた手は動きを止めていた。すうすうと小さな寝息が頭の上から聞こえてきて、簓が先に寝落ちてしまったことに気付く。しかし今は、私もほどなく寝てしまいそうなほど、優しく睡魔に襲われていた。
ありがとうと口に出したらまた簓が目を覚ましてしまうだろうから、背中に回した腕にきゅっと力を込めて、私もゆっくりと眠りへ落ちていった。

Fin.

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