眠い。非常に眠い。そう思いながらベッドから
身体を持ち上げると部屋中にふわりと甘い香りが漂っていて、とても優しい気分になった。
久しく嗅いだことのない香りだったが、自分の知っている香りだ。
「あ、藤宮さんおはよーございます! 来馬先輩! 藤宮さん起きましたよー!」
「太一おはよう。寝起きにその大声はちょっとキツイかな……」
俺を起こしに来たと言う太一からは部屋よりも濃く甘く優しい香りがしている。
「藤宮さんは朝ごはん食べる人ですかー?」
「時間があれば食べるよ」
太一に案内されるままリビングへの扉を開くとホットプレートを片付けている来馬が振り向いて「おはようございます」と微笑む。続いてテーブルを拭いている鋼とキッチンから顔を覗かせた
今が声を揃えて「おはようございます」と俺に声をかけた。
「みんなおはよう。泊めてくれてありがとう」
「藤宮さん、ホットケーキ食べますか?」
「鋼が作ったの?」
「みんなでおやつにつくりました。藤宮さんもよろしければどうぞ」
「おっ、じゃあ遠慮なく1つもらおうかな」
そうだ、この香りはホットケーキだ。最後に食べたのはいつだったか思い出せなかったけれど、盛り付けに用意した苺を小南に全て取られたことだけは覚えている。
3時のおやつ、なんてよく聞くけれど、高校生になってからは学校から帰宅して直ぐに寝て、起きたら直ぐに夜間防衛をしていたので、その概念すら抜け落ち始めていた。
「泊めてもらってご飯までありがとう。今度ちゃんとお礼がしたいから、何がいいか決めておいて欲しいな」
「あ、俺! 藤宮さんと模擬戦してみたいです! 来馬隊バーサス藤宮さんで!」
「こら太一!」
「あ、えっと、俺は大丈夫だから
今もそんなに怒らないで」
模擬戦も戦うことも嫌いではない。この思考はあの忍田さんからの指導の賜物だろうと思うが、人の役に立つのならばと了承するのは自己犠牲に繋がるのだろうか。
ホットケーキを食べ終え、片付けを手伝っていると時刻は16時30分だったので改めて礼を言って鈴鳴支部の玄関を開けると、スーツを着こなしたすらりとした体躯が玄関の前でこちらをまっすぐ見ていた。
「ここだと思いましたよ藤宮さん」
「……何で二宮がここにいるの?」
お見送りする!と、元気に後ろをついてきた太一が絶句する程に二宮は不機嫌ですと言いたそうな顔で俺を見ている。
「迎えに来たんですよ」
「まだ17時じゃないけど」
「城戸司令から聞きましたが連絡手段を全部切ってるそうですね。かなり怒っていましたよ」
「太一、お見送りありがとうな! 次の休みは模擬戦しような!」
無理やり二宮の言葉を遮り、またな、と太一の頭を撫でて扉を閉める。こんな空間に一緒にさせるのはかわいそうだろ。二宮はもう少し後輩への配慮をよろしくお願いしたい。
「さぁ藤宮さん、楽しい夜間防衛を始めましょうか」
20151023