二宮はよく分からないやつだと昔から思っていた。好戦的かと思えばそうでも無かったり、分析しているかと思ったら力でねじ伏せてきたりと、やはり何を考えているのかさっぱり分からない。それでも技術の習得には積極的だったので一緒によく模擬戦をしていた。そんな二宮だからこそ射手としてここまで強くなれたのだろう。

「藤宮さんと戦うのは久しぶりですね」
「二宮とはやりたくなかったというのが率直な感想かな」

鈴鳴支部から少し離れた場所でトリガーを起動させ本部に向かおうとすると二宮が口を開いた。

「夜間防衛は他の隊に任せて、藤宮さんは、俺と、向こうで、存分に手合わせお願いします」

ひとつひとつ区切って、まるで子供に言い聞かせるように話す二宮は気味が悪いし、見下されているようで腹が立つ。人を煽ってのせることに関してはうまいと思うが、人の策略のるのは好きではない。そう、好きではないのだけれど、二宮に対しては別だ。敢えてのってから潰す。徹底して潰してやる。

「二宮もしかして不機嫌?」
「本来夜間防衛でもないのに藤宮さんが連絡手段を全部切ったせいで俺達は呼び出しを受けてしなくてもいい任務をするんですから不機嫌にもなります」
「わおノンブレス」

ポケットに手を入れたまま周りにトリオンキューブを出す二宮を見ながら俺も戦闘体制に入る。射手ならばスコーピオンよりは鞘のある弧月にしていつでも射手に攻撃を切り替えられるようにしておくのが最善だ。こんな場面に備えて忍田さんに弧月の指導を頼んだのだから出し惜しみしても意味がないだろう。

そんなことを考えながら道路の真ん中で弧月を構える俺を見て、二宮はゆっくりと口角を上げた。

「藤宮さんは何か勘違いしていると思いますが、俺は貴方を尊敬してるんですよ」
「そうなの?」
「はい。だからこそ貴方に勝ちたい、それだけです」

二宮匡貴はNo.1射手。現時点をもってそれは確かなことだが、それを二宮は甘んじて受け入れてはいない。二宮にとって藤宮は優秀な射手であり、おそらくそれは攻撃手ランクでも同じだ。藤宮と太刀川が本気で戦ったら藤宮が勝つだろうとさえ二宮は考えている。

藤宮は攻撃手であるが、どのポジションでもそつなくこなし、幅広く対応ができる戦闘員である。そしてノーマルトリガーを使って現在も任務を遂行している現役の戦闘員の中でも、同時にボーダー職員であることと、隊を持たないことにより、ポイントという指標がなく、力量が目に見えない唯一の戦闘員だろう。

「俺ランク戦とかポイントとか興味なくてさ、ごめん」
「今勝つので問題ありません」

弧月を片手に二宮へ仕掛ける藤宮と、ハウンドとアステロイドでうまく凌ぐ二宮。藤宮は建物の影から迫るハウンドを避けようと屋根の上に上がるといつもの見慣れた風景のはずなのに遠くで何かが光った。それも1つではない。

キラリと光るそれはトリオンの光とおそらく狙撃用トリガーのスコープが月明かりに反射した光だ。もちろん夜間防衛があるのだからおかしくはないのだが、1つの箇所に集中しすぎている。

気になるものの二宮の攻撃から逃れつつ遠くを索敵するのは難しく、お互いあと一歩届きそうで届かないもどかしい攻防戦にじわじわと疲労し始めた頃だった。

《―――さん――――、藤宮さん聞こえますか?》
《えっ、[こん]?》
《あっ、良かった繋がった。はい、来馬隊の[こん]です。太一から『藤宮さんが二宮さんに連行された』と聞いて連絡をとろうと思ったのですが、本部のサーバーを経由しないと藤宮さんの端末に連絡を送れなかったので時間がかかってしまいました。大丈夫ですか?》

助かった、オペレーターがひとりいたら楽だなと思ってはいた。けれど不穏な動きは拭えないし[こん]や来馬隊に迷惑がかかるかもしれない。それでも力を借りるか、借りないか。もしもここで断ったとして、目の前にトリオン反応があることは[こん]からも見えているはずだから、結局は後で問い詰められるのがオチか。それならば渡りに舟だ。

[こん]、俺に無理やり手伝わされたって事にして助けてくれないか?とりあえず目の前の反応に二宮ってタグを付けて欲しい。それと広域マップに切り替えて、感想お願い》
《タグ付けしました。広域マップ展開、……何ですかこれ、少し離れていますがボーダーのトリガー反応が多数。バッグワームを着けている隊員もいると考えて、3または4部隊程かと思います》
《だよなぁ》

見間違いだと思いたかった。これはあの場所でボーダー隊員達が戦っている、そういうことだ。

「ごめん二宮。用事ができたんだ、さっさと終わらせよう」

弧月を右手に、左手にトリオンキューブを浮かべる藤宮を見て、二宮はただゆっくりと顔に薄い笑みを浮かべただけだった。

20151025



夜の鷹
12/34