[こん]へ作戦を指示するためにアステロイドを使って二宮と間合いを取るが、それも計算の内なのか二宮は必要以上にハウンドで追いかけてくる。これならば最終的に打ち合いになっても二宮がトリオン切れで緊急脱出[ベイルアウト]してくれそうなので、そのまま二宮に打ち続けてもらって、走りながら作戦を伝えることにした。

《まずは二宮以外を緊急脱出[ベイルアウト]させるからサポートお願い》
《えっと……?》
《俺の予想だと辻も犬飼もいると思う。バッグワーム付けてると思うから、それは俺が対処する。[こん]は二宮を見失わないようにだけ集中していて欲しい。それと二宮隊以外にも俺を緊急脱出[ベイルアウト]させるためにスナイパーが居ると思うから、狙撃されたら狙撃地点割り出して教えて》
《了解です。視界に支援情報を表示しますか?》
見えているからしなくていいよ》

二宮は俺が夜の方が強いことを知っている。だから間合いを詰めようとしないし、きっとハウンドで辻か犬飼の居る場所へ誘い込んで、そのまま力技で俺をねじ伏せるつもりだろう。単純且つ合理的で勝算が最も高い戦法だと言える。

「なー、二宮」
「戦いながら話しかけるのは貴方の悪い癖ですね」
「夜、俺に勝てると思ってるの」

ぞくり、と二宮の背中に寒気が走った。

弧月を鞘に納めて両手からアステロイドとバイパーを二宮向かって放つ。もちろん二宮もガードはするが、俺の狙いは辻か犬飼だ。そのまま二宮が誘導しようと思っていたであろう場所向かうと、見えた。犬飼だ。

二宮と犬飼にアステロイドの全攻撃を仕掛けながら右上後方に注意を向けると狙撃手が見えた。

「穂刈とは面白い人選だな」
「え!? ちょっと待って! 何で見えるの!? 藤宮さん待って! 攻撃止めて!」
「ごめんな犬飼、急いでるからそこを退いて」

さらにアステロイドとバイパーを追加して全攻撃。その中に俺の身を突っ込む。背後から二宮のアステロイドも飛んでくるが、俺の放ったバイパーの弾道を修正して対応しながら弧月を抜いて犬飼の同体を両断した。

「それ居合いですよね」
「そうそう。犬飼よく分かったね。これ荒船から借りた映画の動きを真似したの。かっこよかったでしょ?」
「くっそかっこいいです!」

――犬飼緊急脱出[ベイルアウト]

穂刈の位置を確認し、狙撃に警戒しつつ二宮と向かい合う。

「俺がひとりじゃないことは分かっていたんですね」
「二宮が『俺達』って言ったんだからね。自分で墓穴掘ったんだよ。ところで辻ちゃんどこ?」
「言うと思いますか?」
「探すの面倒なんだけどなぁ」

辻を落とそうかと思ったが探すのも面倒だったので弧月を抜いて二宮に突進した。少しくらいの被弾は仕方ないとしよう。

「まずは右足」

膝よりやや上の位置を切断すると、二宮はバランスを崩して壁にもたれ掛かりながら、眉間に皺を寄せて俺を睨んだ。

「そうやって宣言してから切り落とすのは本当に腹が立ちます」
「毎回宣言してあげてるのにあっさり落とすのはどこの誰だっけ?」

チッと舌打ちが聞こえた。

「さてと、二宮はこのまま置いといて、次は穂刈かな。バイパー! ハウンド!」

キラリと目線の先のスコープが揺れた。移動するつもりらしいが、そんなことをみすみす許すつもりはない。面倒だから普段はやらないだけで、リアルタイムで弾道がひけるのは那須や出水だけじゃないってことを教えてやるよ。

建物も、この時間だからこそ駐車してある車の位置も、全て把握している。逃げた先も、逃げる背後も、全てが手の中だ。俺から逃げられると思うなよ。

――穂刈緊急脱出[ベイルアウト]

《藤宮さん、二宮隊員がゆっくりですが西方へ移動しています》
《了解》

二宮の動きも気になるが、電柱の上に立つと遠くで誰かが緊急脱出[ベイルアウト]した。あれが誰なのかは分からないけれど、早くあの場所へ行く必要があることは明白だ。

辺りを見渡すと犬飼の緊急脱出[ベイルアウト]を見て合流を急いだのか、物陰から移動するバッグワームがチラリと見えた。おそらく辻だろう。うまく物陰に隠れて移動しているけれど、俺は少しでも動いたら分かるよ。

「辻ちゃんみっけ」
「なっ、辻動くな! 馬鹿!」

その視界に入ったら、逃げられない。

二宮のその言葉が辻に届いたのか届かなかったのか、それは定かではなかったが、時すでに遅し、藤宮はそのまま電柱の上でバッグワームを羽織り、イーグレットを取り出した。

「辻ちゃんごめん、接近戦で戦うのはまた今度ね」

綺麗な直線を描いたトリオンは真っ直ぐ辻に向って飛んでいった。

――辻緊急脱出[ベイルアウト]

辻のトリオン器官を的確に狙撃した藤宮に二宮は顔をひきつらせた。普通の狙撃ならば銃を膝や肩で固定し、スコープを覗き、よく照準を定めて打つものである。しかし藤宮は電柱の上に立ったまま、スコープも覗かず、まるで縁日の射的で遊んでいるかのように腕を伸ばして打ったのだ。反動を受けた藤宮の身体[からだ]は宙を舞うように落ちる。

そして落ちながらも二宮のトリオン器官を撃ち抜いた。

「ごめんね二宮」

ああ、俺はいつこの人に勝てるのだろう。

――二宮緊急脱出[ベイルアウト]

20151028



夜の鷹
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