木虎と米屋はとりあえず首を縦に振ったものの、何をしたら良いのか分からず俺へと静かな目線を向けた。
「とりあえず今はこの派閥争いをやめさせたい。誰が勝ってもどの派閥もメリットなし。全ての責任は俺が取る。最悪の場合
黒トリガーは俺が預かる。」
「それ、オレら必要あるんすか?」
「あるに決まってる! 俺ひとりで太刀川、風間、出水、当真をなんとかするなんて無理!」
「清々しいほどに正直っスね」
「それに俺が全員を
緊急脱出させたらそれはそれでお前たちが困るだろ?」
二宮達と散々戦ったし、このあと一筋縄ではいかないトップチームの精鋭達をまとめて相手にするなんてトリオンがいくらあっても足りない。
敵の戦力を減らしつつ、俺の戦力を増やすために敵チームからメンバーをスカウトして、自分を隊長にした即席チームを作ることが一番早いだろう。
例え俺が全員を
緊急脱出させたとしても、任務失敗で城戸さんや忍田さんに怒られたりしたら可哀想だし、戦うとするならば派閥など気にせず戦って欲しいと思った。どちらが勝っても派閥は関係ない。やるならば思い切り、好きなだけ、だ。
さて、どうしようかと二人を見ると、木虎がこちらを向いて律儀に小さく手を上げて質問をなげかけた。
「では藤宮さん、ひとつよろしいですか?」
「ん? なになに?」
「すみませんがそのような理由でしたら私は米屋先輩を倒します」
「え?」
米屋に向けて攻撃を始めた木虎の流れ弾に当たらないように避けると、部屋の中にキラリと光るものが見えた。これは、ワイヤーか。
「木虎ちゃん!」
「すみません。どいてください」
俺の作戦は失敗か……。
《
今! 嵐山と合流する! 視覚支援は全解除、嵐山隊の通信を支援情報含めて全部俺に繋げてもらえるように綾辻に頼んで欲しい! さっき頼んだ回線できた?》
《了解。はい、できていますが切り替えますか?》
《お願い。
今と話したい時はまた声かけるね》
《了解です。お気をつけて》
まだ攻防を繰り広げている木虎と米屋を見ながら、何とかして米屋を
緊急脱出させようと弧月に手をかけた時だった。
鮮やかな動きでワイヤーを張り、米屋を捉えた木虎は米屋のトリオン供給器官を一撃で破壊した。新しい技術や戦法を直ぐに習得して、自分のものにできるのは若い子の特権だと思う。未知の領域の怖さがすごい。
「残念。終わりね」
木虎のワイヤーに引っ掛かり、供給機関を破壊されながらも、米屋が緩やかに笑みを浮かべた。これはまずいかもしれない。
「と、思うじゃん?」
ガシャンと大きな音をたてガラスを割り、窓をから空中へ飛び出した二人を俺は慌てて追いかける。ここはマンションの高層階だ。空中落下なんて狙撃手のいい的になってしまう。
「木虎!」
咄嗟に手を伸ばしたが間に合わず、二人は落ちていく。
外には出水がいるはずだ。この距離からならば当真も狙撃してくるだろう。人数の差を考えて嵐山隊は誰一人欠けて欲しくないが、そうは言っていられない。せめて相打ちにしなければ割に合わない。
床に置いておいたイーグレットを蹴り上げて素早く手に取り、二人が落ちていった場所まで走って狙撃体勢で伏せた。
「くそっ、ここから出水相手に狙撃は無理か」
愚痴をこぼしつつ、銃口を下に向けて出水のトリオン器官を狙って素早く狙撃を試みたが、出水の手から放たれた多くのアステロイドに当たって軌道が反れる。その反れた弾も次から次へと下から登ってくるアステロイドに当たって、砕け散ってしまった。
今ので少しは、とも思ったがあのアステロイドの量には関係なかった。ごめん木虎、間に合わなかった、と心の中で謝った時だった。
「時枝先輩!」
横から飛び出した時枝が木虎を庇う。こんなところに来るとは思わなかった。流石時枝というところか。サポートとしては最高の動きだ。ナイス時枝。サンキュー時枝。よし、木虎のことは時枝に任せて、俺は当真だ。
俺が探し終わる前に、光が一筋、時枝の頭を貫いた。
あそこか。
改めてイーグレットをしっかり構え、当真を斜線に入れたあと、ゆっくり息を吐く。当真の次の狙いは木虎だ。それならば無理に当真に当てることよりも、当真の狙撃を失敗させる方がいい。あいつは凄腕の狙撃手だが、俺はそうじゃない。人より少し周りが見えるだけ。あいつも狙撃手ならそれくらい分かっているだろうし、避けることはしないだろう。狙うのは当真のスコープ周辺。当真の邪魔ができたら上出来だ。
射界30センチってところか。上等。
当真が二発目を撃とうとした瞬間、指が軽く動いたその一瞬を俺が見逃すことはない。当真の指がゆっくり引き金を手繰り寄せた時、俺は思いきり引き金を引いた。
20151121