木曜日 : 風間とご飯


クリスマスソングも終わり、昨夜も順調に夜間防衛を終えた俺が今日の昼食は何にしようか、と食堂へ向かうと同じように食堂へ向かう風間隊を見つけた。

「おーい、蒼也ー、菊地原ー、歌川ー」
「ああ、藤宮さん。こんにちは」
「こんにちは」

蒼也は挨拶、歌川はこちらを向いて会釈をしてくれたけれど、菊地原はそのままの姿勢でげっ、って顔した。見間違いじゃない。絶対に見間違いじゃない。

「今日は吸ってないみたいですね」
「残りは全部林藤さんにあげたよ」

昨日、数年ぶりにお説教のように注意された煙草は、林藤さんに甘いと文句を言われながら引き取られていった。ハイペースで吸ってはいたが、箱の中を空にするほど吸うつもりも無かったのでこちらとしても助かったのでよしとするが、それにしてもあのお説教はこわかった。

「蒼也たちは昼食?」
「はい。藤宮さん、今日も一緒に食べてください」
「何だか蒼也に食生活管理されてるみたい……」

蒼也も菊地原もメニューを前に迷う様子を一切見せず、ランチを受け取って早々に席へと向かって行った。彼らはもう少し食を選ぶことに関して興味を持った方がいい。毎回ほぼ決まったもので飽きないのだろうか。そんな彼らとは正反対で、俺が何を食べようかと迷っていると歌川が話しかけてきた。

「迷っているんですか?」
「そうそう」
「そうですね、昨日はクリスマスでしたが藤宮さんは何かクリスマスらしいものは食べましたか?」
「クリスマスらしいもの? チキンとか?」
「そうですね、あとはケーキとか」
「確かに食べてないや。よし! 鳥食べる! ありがとな」

俺より先にランチを受け取った歌川は、先に席に行きますと一言告げてから去ってく。

俺が席に着いた頃にはもう菊地原は完食していて、蒼也のカツカレーは半分なくなっていた。俺を待たなかったことに対する疑問と、食べる早さについて疑問を投げかけたかったが、冷めても美味しくないだろうし、俺としては全く問題はない。しかし他の人相手にやってないかだけは気になる。

そんな俺の目線に気付いたのか、また菊地原が嫌そうな顔をしながら俺に話しかけた。

「なんで風間さんをジロジロ見てるんですか。キモいです」
「えっ、俺を待っててくれなかったんだなって少し寂しさを感じてただけだよ」
「まあ、藤宮さんは待ちません。他の人ならちゃんと待ってましたよ」
「なにそれちょっと寂しい」

言わなきゃ良かったかな、なんて思っていると、蒼也が『藤宮さんが以前俺が待っていたらこれからは待たなくていいと言ってくださったので』と眉を少し下げてしまったので、慌てて訂正した。何故だろう、すっかり忘れていた。

そんな蒼也はまたカツを一切れ食べて飲み込んだあと、俺の食べているものを見てから首を傾げた。

「それは……、」
「これ? 鴨南蛮そば」
「それは見れば分かるのですが、なぜそのチョイスなんですか……」
「昨日はクリスマスだったけど、チキン食べてなかったから、鳥頼んでみた」
「鳥は鳥でも鴨ですか……」

蒼也にあるまじき変な顔をしながらもまたカレーを食べ始めたので、さして深い意味もなかったのだろう。

それから俺が食べ終わるのを待っていてくれた風間隊のメンバーと別れたが、何だか食べたものが胃の中でぐるぐるしている。あ、ヤバイ吐きそう。

足元がふらつくし、食べたものが腹の中から上へと押し上がってくる。

「誰か、……って誰もいないか」

俺の自嘲めいた言葉は地面へと落ちていった。

◇◆◇

歌川が自分の後ろを歩いていたはずの菊地原の気配がないことに気付いたのは、昼食を食べて終え、自分たちの作戦室へと帰る途中。作戦室よりは食堂の方が近い付近。

後ろを振り向くと菊地原が廊下の奥の奥をじっと見ている。

「菊地原?」

歌川が声をかけると菊地原は足を止めていることに気づかなかったのか、大きく肩を跳ねさせた。

「急に大きな声出さないでよ」
「出してない。急にどうしたんだ?」

菊地原はそのまま一歩も動かずに顎に手を当てて、耳に感覚を集中させていたから大きく聞こえたのかと気付いたが、今はそれどころではない。これ以上考えるのも面倒になって、見ていた方向に向かって走りだした。

「おい! 菊地原!」

歌川の声が大きくて耳が痛いし、廊下を走っているのだからすれ違う人に変な目で見られるし、散々だ。

でも、それでも。

目的地の男性用トイレのドアを乱雑に開け、歩幅大きく中に入ると、流し台で口をゆすいでいる藤宮さんがすぐに見えた。

「あーあ、やっぱり」
「っ、きくち、はら、どうして?」
「どうしても何も、聞こえるんですよ。聞こえたら無視できないでしょ。もう吐き終わりました?」

菊地原が藤宮の元に着いてから数秒後、後を追ってきた歌川と風間が入ってきた。

「体調悪いんですか? 大丈夫ですか?」

風間が藤宮の顔を覗き込むと、顔色は悪くないのだが、目線が泳いでいて、焦点は定まっていない。頭に手を添えてみても平熱だ。

「菊地原、一緒に東さんと忍田さんを探しに行くぞ。歌川は藤宮さんを医務室に連れて行ってくれ」

そう言った風間は菊地原を連れて出ていき、歌川は藤宮を背負うため、背中を見せて屈んだ。

「歌川、ちょっと待って。背負われるのはちょっと恥ずかしいし、自分で歩ける」
「そうですか? では肩を貸します」

肩を貸した歌川は、素直に自分に寄りかかった藤宮の体重が軽いことに驚いた。

「軽いですね」
「そんなに体重かけてないだけ」
「……、失礼します」
「え、うあああああ!」

真正面に向き直り、藤宮の腰に腕を回して持ち上げると、やはり歌川の予想通り軽々と持ち上がった。

「嘘つきましたね」
「うっ、」
「食べてもすぐに吐いてたんでしょう? 医務室についたら点滴か、栄養剤を貰いましょう。」

歌川は藤宮を降ろし、先ほどよりもしっかりと肩に腕を回して歩き出した。

20160116
2013/12/26 木曜日 のできごと。(諸説考察あり)
風間さんは自分のやるべきことをこなすからかっこいい。パワーよりも素早さ特化型イメージ。



夜の鷹
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