日曜日:影浦が気づく


こんな場所に来たくないと思っているが、ランク戦室に呼び出されたのならば仕方がない。

俺を呼び出した鋼と荒船はまだ来ず、暇を潰しながら辺りを見渡すと前からふらふらと藤宮が歩いて来た。

いつものあの目ではない。

あの日、俺を怯ませたあの忌々しい目。
あの時、何の感情もなく俺をつらぬいたあの冷たい目。

ふらふらと歩いているアイツが俺を見ると、謝罪の感情が一瞬にして大量に俺の心の奥深くに鋭く突き刺さった。

―――ごめんなさい。すみません。もう迷惑はかけません。懺悔します。許してください。

「チッ」

舌打ちついでに道を塞ぐと藤宮は驚きもせず俺を見て、一瞬で感情が消えた。

「カゲ、どうしたの?」
「気持ち悪い感情向けてんじゃねーよ、このクソ目野郎」
「……何か刺さってたかな。ごめん」
「本当に忌々しいな。言ってみろ。何があった」
「トリオンが溢れそうな気持ち悪さがあってさ、待ち合わせあるけどその前に誰かと戦いたいと思って」
「おもしれぇ、相手になってやる」

俺の言葉を聞いてギラリと目を光らせる藤宮は好きだ。どこか太刀川にも似た、しかし太刀川よりは殺気立った、相手を仕留めるためだけの目が好きだ。

「俺、職員だからポイントの変動がない模擬戦ね。あっちの訓練室に行こう」

するすると進んでいく藤宮の後ろについて行き、ブースに入ると、ステージは選択せず仮想戦闘モードを機動させた。

「スコーピオンにしてあげる。おいで」
「その上から目線が腹立つ」

互いのスコーピオンがぶつかり合い、若干だがトリオン量の多い藤宮のスコーピオンが耐久性に勝るが、それを機動力とスコーピオンを伸縮させることによって防ぎ、次の一手を素早く繰り出す。

藤宮に勝つコツはひとつ。攻撃される前に攻撃することだ。

◇◆◇

村上鋼が鈴鳴第一のメンバーと荒船を連れてランク戦室に来てみれば、ランク戦ではない訓練室のモニターに人が集まり、更にはざわざわととても騒がしい。

全員でモニターを見ると、藤宮と影浦が攻撃手として全力でぶつかり合っていた。

「なんだこれは」
「あっ、鋼!」
「ああ、北添、これは?」
「ゾエさんも数分前に来たところ何だけど、藤宮さんとカゲが模擬戦をするってことになってたみたい。仮想戦闘モードだから浅い傷だと決着つかなくてさ、さっきから本気の殺し合いみたいになっちゃってる」

そう言う北添は、ジャッジもいない乱闘のようなこの模擬戦をはらはらと見守っていた。

「おっ! 藤宮さんまた勝った! これで何勝目だ?」
「今は26勝18敗で藤宮さん有利」
「もうそんなにもやってたのかー」

村上が彼らの模擬戦を見ていた名前も知らない隊員の話を、盗み聞きも申し訳ないと思いつつ耳を澄まして聞くと、何とも理解し難い数字が聞こえてきた。

これは止める人間がいなければ何時間でも続けることになるだろう。

「荒船」
「分かってる」

トリガーを機動させて仮想戦闘モードになっている訓練室に入る。

「藤宮さん」
「あっ、鋼!」
「おい鋼! 横から入ってくるんじゃねぇ!」
「いやいや、カゲ、先約はオレだ」

影浦のスコーピオンをレイガストで受け止めてふたりの間に立つ村上に、藤宮は少しだけ嬉しそうに微笑む。

「鈴鳴第一とだよね。楽しみだったんだ」
「そのことなんですが、荒船とカゲを連れてきたので、本当にランク戦みたいな模擬戦がしたいです」
「ん? 俺と荒船とカゲで即席チームってこと?」
「はい」
「だから荒船がいるのか……。でもオペレーターいないよ?」
「あっ」

やってしまったと目を見開く村上の頭を撫でながら通信デバイスを取り出した藤宮が誰かに話しかける。

「もしもし? うん。今から模擬戦のオペレーター手伝ってくれそうな人いるかな? うん。そうそう。ありがとう、よろしく頼むよ」

通話を切った藤宮が笑いながら、小佐野ちゃんが来てくれるって、と村上に話しかける。

「今通話したのは……?」
「ああ、武富桜子ちゃんだよ。ランク戦の実況解説リストから今日の午前中に予定が入っていないオペレーターを洗い出して、連絡の仲介をしてもらった」
「なるほど……」

村上は藤宮の手際の良さに驚きつつ、「作戦会議をしよう!」と、荒船と影浦を連れて離れて行ってしまった背中を見て、少しだけ寂しさを感じた。

「鋼さん! 俺あの三人が相手なんて聞いてませんよ!」
「強い相手じゃないと訓練にならないだろ?」
「即席チームでも強すぎます!」
「まあまあ」

来馬は鋼がランク戦形式にしてくれたのだから頑張ろうねと別役を落ち着かせながら、あの強敵三人はどのようにしたら勝てるのか、頭をフル回転させていた。

20160313
2013/12/29 日曜日 のできごと。(諸説考察あり)



夜の鷹
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