静かな夜、警戒区域に配置された隊員達は防衛任務に勤めながらも各々自由な時間を過ごしている。

その中、三門市立第三中学校の屋上で仰向けになりながら夜空を眺めているのは藤宮司だ。

瞳を緑に美しく輝かせながら、男性にしては細く長い指を夜空に向けて星を編む。

時刻は午前2時17分。

どこにもゲートは開かず、通信機からも声は聞こえない。もちろん仲間内で話しているのかも知れないことは分かっているが、特に話すこともないのでただ空を眺めていた。

《おい藤宮! サボってるんじゃない!》

突然藤宮の通信機から聞こえてきた声の主は鬼怒田で、いつもと変わらぬ剣幕に驚き体をがばりと体を起こした藤宮は目を何度か大きく瞬かせる。

《鬼怒田さんまだ帰ってなかったんですね》《話をすり替えるな! 真面目に防衛任務に取り組まんか!》
《いやいや、何かありましたら駆けつけますし、担当地域のパトロールもしてます》
《そうじゃない! 寝転がるな!》
《はぁい》

24歳にしては幼く間延びした声で不満を伝えながら立ち上がった藤宮はパンパンと服の裾を[はた]く。

《あ、鬼怒田さん。また明日にでもイーグレットの調節をしてもらえますか?》
《またか……》
《それは俺のセリフです……。イーグレットなのにアイビスくらいトリオンもってかれるの何でなんですか。威力はイーグレットのままなのに》
《しらん》
《鬼怒田さんの頭脳をもってしてもダメなものはダメなのか……》

荒船に狙撃の訓練頼まれたのになぁ、とぼやく藤宮に鬼怒田はため息を吐く。

回数こそ多くないが、藤宮が鬼怒田にトリガーの調節を頼むことがあり、それに頭を抱える鬼怒田を見かける人も多い。

ボーダーのトリガーが技術的に藤宮についていけないと言っているようなもので、無茶な使い方をするなと言われているのに止めない藤宮に開発室は怒る気力すら無くなっている。

《玉狛トリガーを頼もうかなぁ》
《やめておけ》
《なんで鬼怒田さんが止めるんですか》
《お前と玉狛のトリガーは合わん。調節してやるから任務が終わったら持ってこい》
《え、でも俺、朝までですよ?》
《それくらい待ってやる》
《でも鬼怒田さんが倒れてはボーダーの損失は大きいですし……、また今度持っていきます。鬼怒田さんもお仕事が終わりましたらご帰宅ください》
《はぁ、お前はどうせまた明日の夜も任務なんだろ。任務前に持ってこい。予備のトリガーを用意しておく》
《ありがとうございます!》

会話を終え、藤宮がまた空を見上げると月にかかっていた雲がなくなり、月が明るく輝いていた。

再びその場に寝転がった藤宮は静かな三門市の風の音を聞きながら高い空を見上げた。

20160417
優しい鬼怒田さん



夜の鷹
25/34