夜間防衛任務も終わり、トリガーの修理は翌日以降になると伝えられた藤宮は、そのまま自身の寝床でもある仮眠室へと向かった。
早朝の静けさは自分にとても合っていて、尚且つひと目を気にせず歩けるところがいい。
換装を解いた藤宮の目は鮮やかな緑に輝いていて、例えるならば真夜中の路地で見た猫のようだと風間には何度か言われたこともある。
この鮮やかさを藤宮は嫌っているが、小南が綺麗だと褒めてくれたのだからと思うと少し好きになれた。
「藤宮さーん」
ぴょこんと背中から現れたのは迅悠一で、そのままずしりと藤宮におんぶしてもらうように背中にのしかかった。
「重いって」
「まあまあ」
はぁ、とため息吐きながらも迅をズルズルと引っ張って歩く藤宮はため息の次に大きなあくびを溢した。
「で、迅は俺に何の用なの? 今日は眠いから手短に頼みたいんだけど」
「用事と言うより渡したいものがあってですね」
「渡したいもの?」
部屋の前まで来た藤宮は扉を開けて迅を迎え入れた。
ソファにぽすんと座った迅はポケットからごそごそといくつか丸く、飴玉のようなものを取り出した。
色とりどりの包装紙にキャンディー包みで包まれたそれは全部で6つ。コロコロと軽やかな音をたてて机の上に転がる。
「何これ?」
「チョコレート。今日小南と陽太郎が作っててさ、藤宮さんにも持ってきた」
「小南と陽太郎か」
くるくると回すように包み紙を剥がすと丸く茶色いチョコレートが姿を見せた。
「あ、それは形がいいから小南だな〜」
そんな迅の大きなひとりごとを聞きながら藤宮は指先でチョコレートをつまみ上げ、口の中に入れる。
指先についたココアパウダーを舐めながら迅を見ると、嬉しそうに微笑みながら「おいしい?」と顔を寄せてくるが、味は市販のチョコレートと変わりない。
それでももうひとつと指を伸ばしてしまう自分にくすりと笑いながら「もちろん」と答える藤宮に、迅は再度笑みを深くした。
「きっとふたりとも喜んでくれるよ」
寝る前に甘いものを食べるのはやめなさいと誰かに言われたような気もするが、それが誰であったのかは思い出せない。
3つ目を口に含んで、あとは明日の楽しみにしようと冷蔵庫に仕舞うと迅はすっと立ち上がった。
「じゃ、お邪魔しました〜」
「持ってきてくれてありがとう」
「いえいえ。また明日もよろしくお願いします」
「明日の夜間防衛は迅だっけ?」
「いや、色々です」
「よく分かんないけど頑張りすぎるなよ」
「はぁい」
くるりと背を向けて去っていく迅を見送りながら藤宮は普段通りに就寝した。
次に藤宮の目を覚まさせるのは目覚めし時計ではなく本部が壊れる音だとは知らずに。
20160829