体勢を崩したエネドラに諏訪隊と菊地原、歌川が畳み掛けた。
「司、どうして手を出さなかった」
「やだなぁ忍田さん。手柄を横取りするほど子供じゃないですよ。俺はもう飛び出したいときに動けないなんて嫌なんです」
エネドラを見下ろしながら菊地原は忍田に問いかける。
「どうします、こいつ。さっき通信室で何人かこいつに何人か殺されてますよね?」
「……捕縛しろ、捕虜として扱う」
菊地原の声が聞こえていたのか、藤宮がの眉がぴくりと動いた。
「どうして殺した?」
静かに呟いた藤宮の声が訓練室に響く。
背中をぞわぞわと這い上がるような恐怖は冷たく、暗く、誰もその場から動けなくなる。藤宮から発せられるのは普段感じたことのない殺気。トリオン体だからこそ、死は縁遠いものだと思ってしまっていた。心のどこかで死ぬことはないだろうと思ってしまっていた。
そんな感情を打ち砕くような恐怖はまるで闇に落ちたようだった。
藤宮がエネドラにそっと近づいたとき、空間に穴が空いた。
「回収に来たわ。エネドラ」
仲間か、と藤宮は再び孤月を強く握り直したが、ミラと呼ばれた仲間がエネドラの手首を切り落とした。
「気づいてる? あなたのその目の色。トリガー角が脳まで根を張ってる証拠よ。あなたの命はそう長くない」
そのまま話を続けたミラはブラックトリガーのみ奪ってエネドラ手首を捨てた。
「ふざけんな……!!ボルボロスはオレの……!」
エネドラが叫んだ言葉に誰よりも反応したのは#藤宮#だった。
「馬鹿!戻れ!!」
忍田の制止など聞きもせず、エネドラの元へ全力疾走で近づき、ミラにトドメを刺され、虫の息のエネドラを見下ろした。
「あれは、”お前のブラックトリガー”なんだな。絶対取り返すから死ぬなよ」
藤宮はミラの手に握られたブラックトリガーを掴もうとし、ミラの元に飛び込んだ。
「返せ」
ミラの背中がぞくりとした。
ギラリと光る緑の瞳が恐怖を誘ったが、それでも引き下がらず、そしてあることを思い出した。
「あなた、それはアステール?」
ミラの手が藤宮の腕を掴み、黒い穴へと引きずり込んだ。
20180102