トリオン体の力を大いに借りた全力疾走は、とんでもない速さとなるが、そこは技術班の腕の見せ所。リミッター付きである。
あー、もう! 城戸司令! 制限解除をお願いします!
通信が届いているのかいないのか、藤宮はとりあえず心の中で叫んでみたものの、誰からも返答はなく、速度も変わらない。
「解除してくれないと大声で言いますよ」
できる限りの小声で呟いてみると、小さく回線の繋がる音がし、城戸の声が藤宮に届いた。
「脅しとはおまえらしくないな」
「やっと出てくれましたか司令。もちろんこれ、専用回線ですよね」
「当たり前だろう」
「ですよね。さて、制限解除をお願いします。もうすぐ目的地ですけど」
「却下だ」
「いいじゃないですか。子供達を巻き込みたくないでしょ」
「却下だ」
「ケチ。じゃあいいです。自分でなんとかします」
「どういう意味だ」
「ケチな司令には教えません!」
藤宮は通話をオープン回線に切り替え、城戸との通信を切った。
それから幾度か城戸からの通信が届いたが、完全に無視をして訓練室に飛び込む。
「諏訪!」
「は、え、藤宮さん!?」
「あれ、本部長もいらしてたんですね」
「司、下がっていなさい」
「いや、これ、俺が居た方がいいでしょ。そう見えるよ」
「司」
忍田の声に聞く耳を持っているのかいないのか、視線を諏訪に向け口を開いた。
「諏訪、その黒い霧の中に敵がいるのか?」
「え、あっ、そうです!」
状況を確認しようと冷静に話しかける藤宮と、慌てて返事をする諏訪を客観的に見ていた笹森は誰よりも冷静に会話の違和感を感じ取っていた。
「それなら仕方がない。……詳しくは存じ上げませんが危害を加えないのなら悪いようにはしません。両手を挙げてゆっくり振り返ってください。あ、日本語通じるかな」
藤宮の発言に、論点はそこなのだろうかと言う者は誰もおらず、しびれを切らした侵入者、エネドラは口悪く罵りながら振り返った。
「なんだテメェは」
「藤宮司」
「……、お前のそれ、アステールか」
「なんですかそれ」
「お前を殺したらハイレインはさぞかし困るだろうなぁ」
「諏訪、通訳して」
「無理です」
話を振られた諏訪もエネドラの話している言葉を理解することはできず、戦闘態勢のまま見る。
「本部長、行きますよ」
「……仕方ない。無理するなよ」
忍田の後ろに着いて駆け出す藤宮はオペレーターにエネドラの弱点であろう箇所を的確に指示した。
「お前、これも見えてるのか」
オペレーターから送られてきた視覚支援情報を見て忍田は驚きの声をあげた。
「まあ、そうですね」
「悪化してないか」
「精度が上がったと言って欲しいですね」
忍田の攻撃がエネドラを確実に仕留めていく。
「忍田さんこそ、そろそろ引退したらどうですか」
「まだ無理だな」
お互い、阿吽の呼吸とでも言えるコンビネーションでエネドラの換装体を崩した。
20180102