「救護班を呼べ、人型近界民を収容する」

落ち着いた声で言う忍田に、諏訪が噛み付くように反応した。

「こいつを……!? もう死んでますよ本部長! それより藤宮さんは!? あの女に連れて行かれたんですよ!」

諏訪が周りを見渡しても、全員が不安そうな顔をして忍田を見ていた。

忍田も心配だったが、今慌てても仕方がないと割り切っているだけで、本部長の立場を捨ててもよいのなら今すぐにでもこの場から出て、手がかりを探したいし、あの時に藤宮を止められなかった自分が情けなくて仕方がない。

「忍田さん」

静寂を破ったのは菊地原だった。

「こっちは風間隊で対処しますので、忍田さん、よろしくお願いします」

菊地原は嫌そうな顔をしながらエネドラの所持品を調べ初めていたが、それは血が嫌だっただけではなく、菊地原の耳には最後に残り続ける藤宮の声が何度も自分を攻め立てるような気がするのだ。

「ねえ歌川」
「どうした菊地原」
「藤宮さんがブラックトリガーに反応するのって、やっぱり風刃があるからかな」
「だろうな」

エネドラの所持品をまとめながら菊地原は腹の中がぐるぐるとかき回されるような気持ちになった。
人前ではあまり感情を見せない藤宮は、いつも飄々としているようで、そうではないことを菊地原は知っていた。
風刃に指一本触れもしない代わりに迅以外が風刃を持つとひどい嫌悪感を示す。

何も分からない自分が嫌になった。





また未来が動いたな。

20190906



夜の鷹
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