16時27分。風間は16時15分から藤宮の部屋の前で出てくるのを待っていたが、中からは5分間隔で鳴るアラームの音しか聞こえない。

16時30分。また無機質なアラーム音が扉の奥に響いてきた。

数秒後、バン、とアラームを押さえる大きな音がしてまた部屋の中が静かになった。

ドアをノックしてみるが返事はない。仕方なくドアを開けると廊下の光が真っ暗な部屋に差し込んだ。ドアの近くにある懐中電灯のスイッチを入れて自分の視界を確保してから、ドアを閉めた。

真っ暗な部屋の中で小さな懐中電灯の光だけが淡く輝いている。

床の布団の上にあるあたたかい柔らかな丸みにそっと手を伸ばす。

顔に光が当たらないように身体[からだ]を揺らすと藤宮さんが小さな声を出した。

「藤宮さん、大丈夫ですか?」
「んー、蒼也?」
「はい」
「そっか、今日は蒼也か、良かった」

薄く開いた目は綺麗な黄緑色に光輝いていて惹き込まれる。この瞳を見られるのなら毎日起こしに来てもいい。

さながら夜の猫のように明るく発光する瞳は彼のサイドエフェクトも関係しているのだが、それでもこの瞳が好きだ。

「大丈夫ですか?辛かったら太刀川を代わりに呼びますが」
「いや、いい。俺がこうしたいんだ」
「知ってます」
「よし! わざわざありがとな! ……うわ! もう45分じゃん!」
「外で待ってますね」
「いや、ちょっと待って一緒に行こう」

バタバタと慌ただしく洗面台から水を流す音がしたと思うと「電気つけていいぞー」と聞こえてきた。言葉通り電気のスイッチをオンにすると真っ暗だった部屋が明るくなって、パーカーを羽織る藤宮さんが見えた。瞳はいつも通りの深い緑色になっていて、ああ、コンタクトレンズをつけてしまったかと少し落胆した。

「起こしに来てくれてありがとう」
「いえ、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫!蒼也は優しいな」

にこりと笑った藤宮さんの顔はいつもより若く見えて少しだけ距離が近く感じる。もっと笑ってくれないだろうか。色んな人に優しい藤宮さんはよく笑う人だと思うけれど、たまに表情が抜け落ちてしまっているとこがあると思う。当たり前のようかもしれないけれど、その瞳は冷たく見え、こわい。

「待たせたな!」

ぽんと頭を叩かれて手を引かれる。

急げ、と言いながら俺を引っ張る藤宮さんの背中を見ると今日の防衛任務はいつもより楽しくできそうだと思えるから不思議だ。


夜の鷹
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