二星間ディスタンス

6月の雨も早く去っていた。早く去った理由で思い当たるものは2つ。

1つは体育の授業が『男女合同体育館』と、まるで俺を苦しめる呪文のような7文字で表されるようになったこと。
もう1つは空が低いから、毎日のこの圧迫感が早く終わればいいのにと睡眠時間が多かったこと。

そんな6月はもう一度寝ると終わる。そう思うと、日々を過ごすためだけに消費されていたこの睡眠も、意味のあるもののように思えてくる。

終わってしまえば早いものだと感じるが、それ以上にまったくもって実感がわかないのも事実なのだ。

目を閉じると、薄い水色の傘がまぶたの裏に思い浮かぶ。

朝も夜も暗い毎日の中で、彼女の傘は丸く、優しい明るさをしていた。例えるなら青い月のような、そんな感じだ。

ブルームーン、なんて言葉を聞いたことがあるけれど、天文学や気象学にそんな用語はなく、定義もされていないため、ただ単純に大気中の塵の影響により月が青く見える現象をブルームーンと勝手に呼んでいるだけにすぎない。

写真でしか見たことのないその月を思い出すほどに彼女の傘は俺の印象に確かに深く刻まれていた。

綾瀬さんは日々変わらず、マイペースで生きていた。時計の針のように決められた時間、決められたことをサクサクと進める。しかしそうかと思えば考えもつかないような行動も取るので、学生生活なんて俺も[はた]から見ればそう思われていることだろう。

ああ、また夜が更けていく。

今日の夜間防衛はどの隊が行っているのだろう。

二宮隊は明日の夜間防衛を任されている。それが良いとも悪いとも思えないのは、夜に仕事をすることに抵抗がないからだろうか。

トリオン兵を倒して報酬が支払われることには変わりないが、夜間手当はつく。烏丸もたまに参加しているが、あいつはもっと夜間防衛のチームに入りたいだろう。年齢を理由に夜間に任務を行う回数は制限されているようだ。1歳しか変わらないのに、いや、その1歳が俺と烏丸では違うのだろう。

きっと烏丸は日々を大切にしているだろうし、今の俺のように時間消費をするためだけに寝る、なんてことはしない。

比較したところで何も変わらないのは事実だけれど、夜のこの静かな空間では、俺はひとり、記憶を旅するのだ。

記憶の中で綾瀬さんが俺に笑いかけることはないし、顔を向けることもない。

俺の記憶の中なのだから仕方ないのだけれど、これが奈良坂なら、彼女の笑った顔や困った顔が夢に出てくるのだろうか。

思考がマイナスへと傾いてきた気がするので、一度目を開ける。

ふと明かりが欲しくなって、カーテンを開けると、深い色をした雲はひとつもなく、綺麗な星空と、名称は分からないが上が少し欠けた月が、明るく俺を照らした。

星と星の間は近く見えるけれど、実際には何億光年と離れていることを知っていながら、俺はあの星々を心のなかで繋いで星座にしてみるのだった。

20160119



特別な黙字をきみに捧ぐ
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