空、仰ぎ見て

終業式の日、眩しい夏の日差しが窓から降り注ぎ、痛々しいほどの明るさが目に痛い。

「辻ー、大丈夫かー」

休み時間に机に伏したまま顔を上げない辻を見て後ろの席からクラスメイトが声をかけたが、辻は無言を貫く。

「おーい、生きてるかー」

前の席の男子も辻の頭をツンツンと突つきだしたところでやっと辻は顔を上げた。

「生きてるし大丈夫。明日からこの人混みの中を抜け出せるんだ。どちらかと言えば晴れやかな気分」
「人混みじゃなくて大勢の女子から、だろー? そんなんでボーダーやっていけるのかよ」
「それとこれとは別問題だ」

正直に言えばボーダーでも女性とはあまり関わらず過ごしているが、もしも目の前で女性が危機に陥っていたら迷わず助けるし、そこで躊躇うほど小さな人間ではない。

朝からの全校集会を無事に終え、この休み時間が終われば担任教師からの諸連絡。午後からは晴れて夏休みだ。

クラスメイト数人が辻の頭をぐりぐりと撫でたり、頬をつんつんと突っついたりしながら「夏休みもちゃんと外に出ろよ」と笑いながら言う。

されるがまま適当に相槌をうちつつ教室の扉に目を向けると、担任と綾瀬さんが何かを楽しそうに話ながら教室に入って来た。ふたりの手には段ボール箱があり、それを見た教室中の生徒から大ブーイングが巻き起こる。

「せんせー! 宿題いらなーい!」
「オレもー!」

全校集会が終わった後の少し疲弊していたあのクラスメイト達はどこへいったのか、わいわいと騒がしくなる教室。

ぱちり。

綾瀬さんと目が合ってしまって、さっと目を反らす。

思い返してみれば今俺はクラスメイトに頭を撫でられたり頬を突っつかれていたりと、何とも言い難い醜態を晒していたことに気づいた。

「おっ、辻。綾瀬が笑ったぞー」
「……うるさい」

担任に着席しろと言われ俺を弄っていたクラスメイト達は離れて行ったが、俺と席に座る綾瀬さんの間に人がいなくなったことで、より一層綾瀬さんを意識してしまう。

笑っていたのか……。

どんな笑い顔だったのだろう。

女子の友達と楽しそうに笑っているところは遠くから何回か見たとこがあるけれど、それ以外は知らない。

先生からの連絡が終わり、挨拶ののち、解散。

夏休みだ。

バッグに荷物を詰め、俺は足早に昇降口へ向かう。靴を履き、校門を抜ける直前。俺は引き止められた。

「辻くん!」

振り替えると綾瀬さんが息を切らして立っている。

「日曜日、時間、伝えてなかったから……!」

目線を合わせず、返事もしない俺に、綾瀬さんは息を整えながら苦しそうに話を続けた。

「18時、約束の場所で待ってる! またね!」

昇降口へ走って戻る綾瀬さんの髪はさらさらと靡いて輝き、仰ぎ見た空はとても綺麗な青空だった。

20160215



特別な黙字をきみに捧ぐ
7/11