サービスエース
「ちょっとでいいですからサーブしてください!」
篠岡の手を握ってぐいぐいと迫る西谷は篠岡の性格を熟知していた。
つまりは押しに弱い。
「西谷!」
ついに澤村が少し強めの怒声を発すると、西谷はもちろんのこと、体育館に居た全員がびくりと背筋を震わせる。
「あ、あの……、ちょっとだけボールを貸していただけますでしょうか?」
しゅんと項垂れた西谷を見かねて篠岡は澤村に尋ねた。
「あ、ええ構いませんが怪我にはお気を付けて」
「ありがとうございます。ほら! 西谷いくぞ! 構えろ!」
「うっす!」
篠岡は制服の上着を乱暴に脱いで壁際に投げたあと、ネクタイを緩め、シャツを腕を捲る。
西谷が構えると篠岡は2回ボールを突くと高く上げて思いきりジャンプした。
バァン、と、体育館に大きな音が響き、西谷は一歩も動けずただ最初の構えのまままっすぐ篠岡を見ていた。
「西谷は成長してないなぁ」
「ちょっと遅れただけッス! もう一本お願いしゃーーーす!」
「はいはい」
西谷は転がったボールを拾って篠岡に投げる。
「ほらいくぞー」
「うぉっしゃこーーーーい!!」
またボールを2回突くとそれはそれは綺麗なジャンプサーブを見せた。
西谷はそれを逃さず取ったが、ボールの中心を捉えきれずに体育館の壁に当たる。悔しそうにもう一回もう一回と言う西谷を部活中だろ、と諌めていてると背後から声をかけられた。
「篠岡さん!!」
「うえっ! 誰!」
「影山飛雄です! サーブ教えてください!」
急に大きな声で名前を呼ばれてびっくりした。変な声出たし恥ずかしい。キラキラとした目をこちらに向けている影山くんには申し訳ないけれど、バレーボールの知識なんて一般人と同じくらいだと思うし、教えてと言われても感覚なんだよな、どうしよう。それでもやはり無下にはできなくて、出来る限り伝えようと思った。
「えっと、特にサーブに関して知識は無いんだけど、俺はたぶん人よりボールを高く上げてると思う。こう、ボールが落ちてきたところを見て、自分の手が真ん中に当たるなーって時に降り下ろしてるくらい、かな?」
「うーん」
「あっ、ごめん分かりにくかったよね。ごめん」
「そんなことないッス!」
なるほど、高め、と小さな声で呟きながら顎に手を当てる影山くんを見てるとなんだか及川に似てるな、と思う。バレーが大好きだって顔だ。
感心していると烏野バレー部の全員の視線が俺に向いていた。恥ずかしい。