まるで不良みたいだ

『篠岡くんって王子様みたいだよねー!』なんて声は入学当時からよく聞こえる。及川にかけられる『かっこいい』が多いなか、『王子様みたい』と聞こえてきたらそれは篠岡のことだ。そんな時はだいたい岩泉と三人で並んで歩いていたりするので岩泉はその後ろを少し及川寄りに歩く。

なぜ及川寄りなのかと花巻に問われた岩泉は、篠岡は姿勢がいいから、と答えると花巻は勿論、松川にまで笑われた。

及川の姿勢が悪いと言いたいわけではないが、篠岡の歩く姿は優雅で綺麗なので何となくだが気品を感じてしまうのだ。

「啓ちゃんが王子様みたいなのは認めるけどさぁ」
「認めないでくれ」
「いや、それはもう啓ちゃんも認めようよ。だって超王子様じゃん? 物腰軟らかじゃん?」
「で、何が言いたいんだお前は」
「いやん啓ちゃんこわいよー!」

篠岡は千鳥山中学校に通っていた頃、勝手についた王子様というニックネームが広がり過ぎてあまり名前を読んで貰えなかったことを恨んでいるらしいと昔馴染みだという山田から岩泉は聞いていた。及川が聞いてないのは偶々教室に居なかったからなのだが、そう言えば及川に言ってなかったな、と今さらながら思っていた。

「でもさ、こうやってお昼に及川さんパシらせて焼そばパンかじってるからちょっと不良みたいでドキドキするよね!」
「ごめん意味わかんないしパシらせてないし」
「要するに啓ちゃんかっこいい」

はぁ、と溜め息をつく篠岡はそれ以上何も言わず及川が買ってきた焼きそばパンをもぐもぐと頬を膨らませながら食べていて、それは王子様とは程遠かった。

「そう言えば啓ちゃんのご両親はどこにいるんだっけ?」
「東京。こっちではおばさんの家を間借りしてる」
「へー、3年目にして初めて知った。何でこっち来たの?」

その及川と何気ない質問に篠岡の口が止まった。一瞬にして重くなった空気に及川も気づいたようでやってしまったと困り顔をしている。これは俺が助け船を出せって事だな、と飲んでいたパックの牛乳を机に置いた。

「ンなもんどーでもいいだろ、及川はさっさと飯食え」
「そうそう、早く食べなよね」

あ、戻った。どうにも篠岡には不可解な事が多い。聞かれたくないなら聞かないし、聞こうとも思わないのだが及川は歯痒いらしい。

「やっぱり啓ちゃんって綺麗な王子様なんだね」
「意味わかんない」

昼休みが終わるまであと12分。


青城のピアニスト
13/17