明日は雨なのか

本日最後の授業が終了すると、西谷は教室の中の誰よりも先に席を立ち、走って教室を出て行った。

西谷が向かったのは部室で、先に来ていた菅原に噛みつくように詰め寄った。

「スガさん! ちょっと手伝ってください!」
「どうした?」
「これなんですけど……」

西谷が菅原に渡した携帯電話の画面にはメールが表示されており、内容は要約すると『ドイツ語のページですが、この手順で西谷が動画を見るのを手伝ってください』と書かれている。

「とりあえず部活始まる前にさっさと見るべ」

菅原は自分の携帯電話に手順のメールを転送し、それを見ながら西谷の携帯電話を一緒に操作する。

手順が丁寧に書かれているため動画に辿り着くまでに困ることは無く、これなら西谷が1人でやっても大丈夫だったかなとも思ったが、心配になる気持ちはあるのでもしかしたら自分と同じような性格の人間なのかなと思いつつ動画の再生ボタンを押した。

最初にドイツ語と思われるアナウンスが流れた後に綺麗なピアノの演奏が流れ始めた。

「おお! スガさん流石です! ありがとうございます!」
「たいしたことないべ」

西谷は携帯電話の音量を上げてロッカーに置き、着替えを始めた。

普段の部室に似合わない優雅なピアノの音楽が流れ、ニコニコとした西谷がそれを聴きながら着替えている。

「ちわーーーってなんだこれ」
「大地遅かったなー。なんかノヤがこれ聴きたかったんだってさ」
「へー。珍しいこともあるんだな」

続々と部員が部室に集まり、菅原、澤村、日向、影山、縁下の順で来たところで演奏は終わった。

「スガさんログアウトってどこっすか?しとけってメールに書いてあったんスけど……」
「あーちょっと待って、えっと……」

似合わないピアノの演奏が終わったことで謎の静けさに包まれた部室は「西谷は頭をぶつけたのか?」「明日は雨か?」という会話で静寂が打ち消された。

「まあまあ、今日も部活頑張るぞ!」

澤村は最初こそ気になっていたものの切り替えて部員の気を引き締めさせて部室のドアを開けて出て行った。

この日の西谷の調子はひたすら良かった。


青城のピアニスト
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