及川がうるさい

「啓ちゃん見てみてー!!」

及川が持ってきたのは月刊バリボーと書かれた雑誌で、押し付けられるように渡されたそれをよく見ると付箋が貼ってある。そこを見ろということなんだろうなと開くと青葉城西高校の記事が載っていた。

「へー。やっぱりすごいんだな」
「ふふーん!」
「及川、さ、」
「ん?なになにー?」
「いや、やっぱりなんでもない」
「えーーーー!気になる!!」
「及川うるさい」

篠岡は話を聞き流しながらスマートフォンを取り出して及川の載っているページの写真を撮り始めた。

カシャリ、と教室にシャッター音が響き、数人がこちらに振り向く。

「啓ちゃん?」
「いや、これいい写真だなーって。あ、ブレた。」
「いやいやいやいやいやいや!」
「『いや』って何回言った?」
「え?分かんない。……ってそこじゃなくてーーー!」
「うるさいなー。あ、及川も俺の写真欲しい?はい、ピース」
「うぇ!ピースっ!」

カシャリ。

篠岡は及川の肩を抱き、自分に引き寄せてから肩に回した手をピースをにして自撮りをするように及川とツーショットを撮った。

「うわ、及川変な顔」
「そりゃそんな顔にもなるでしょ!」
「じゃあ消しとく」
「待ってー! それ頂戴!」
「いいけど。あ、俺無表情だったわ」

及川にささっと写真を送った瞬間、及川は5枚保存したしそのうち一枚をSNSのアイコンにしたもんだから恥ずかしいしうざくなってきて頭を叩いてやった。

「消せ」
「やーーーだよーーー!」
「岩泉ーーー! 今日の及川の練習はギリギリ死なないくらいの練習量にしといてくれーー!」
「やめてーー! アイコンやめるから! 許して!」
「仕方ない」

篠岡はそのままスマートフォンをバッグに入れると「冗談」とハニカミながら及川の頭を撫でた。

「その写メは俺からのごほーびな」
「えっ! えっ! なんで!」
「花巻がこれが一番喜ぶって言ってた」

このあと花巻は岩泉に「及川に必要以上に優しくされて気持ち悪い」と相談したらしい。


青城のピアニスト
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