重なる。

いよいよ殺されるんだと目をつぶった真っ暗なまぶたの裏側が明るくなる。
明るくなるなんて表現じゃ生ぬるいくらい、眩しい。痛いと感じるほどの白い光は天国の光でも何でもなくてただの人工物の光だった。

私を殺そうとしていた男があからさまに動揺しているのが伝わる。

「誰だ!?」
「大事な人なので…僕に返していただけませんか?」

聞き覚えのある声だった。殺されるかもしれない刹那に思い出した声。
……聞きたいと、助けてほしいと強く願った声だった。

安室透、彼がなぜこんなところにいるのかわからない。
海水浴シーズンでもないのに、日が落ちて真っ暗なのに。私を心配してくれる人なんていないはずなのに。

「誰だっつってんだよ!!」
がたいのいい男が私から離れるのを感じる。


「あ、ああ…そう……そうだ……あの女はこいつのツレなんだよ。そういう性癖があるんだ。兄ちゃんには貸せねえなあ」
違う。違うよ。そんなわけない。こいつら知らない。そんな性癖なんてない。
そう伝えたいのに、恐怖で声は全く出なくて、代わりに震えた吐息が出てきた。

「…ほう。僕は彼女と親しくさせてもらってますが、彼氏がいたという話は聞いたことがありませんね。……それも、こんな頭の悪そうな男…」

空気が変わった。
重たく冷たい空気。

その空気は何かを殴る音を最後になくなった。
目隠しは外れているけど、怖くて目を開けることなんてできなかった。

誰かが荷台の前に立っているのを感じる。
……誰か、だなんてわかってる。安室さんが誰かにやられるなんて想像もつかない。

こんな目にあっているからだろうか、彼の纏う雰囲気がいつもと違う気がする。
もう怖くないはずなのに怖い。目を開けられない。声を出せない。

彼が何かを呟いた。聞こえなかったけど、聞き直すこともできなかった。



「名前さん。大丈夫ですか?」
安室さんの声がする。
いつもの安室さんの声。
安心する。先程の怖い雰囲気はなくなっていた。
「……は、い」
久しぶりに出した声は掠れていて彼に聞こえていたかどうかはわからない。

「こっちにおいで」
固く瞑っていた目を開ける。
こちらを向く車のライトが眩しい。安室さんの顔は逆光で見えない。

「……っあむ、ろさん?」
「そうですよ」

目の前にいるのは安室さんなのに、一瞬、スコッチに見えた。
……そんなわけないのに。

安室さんが手や足を縛っていたロープを切ってくれて外に出るように促してくれるが、体が動かなかった。

怪我はしていない。腰を抜かしたわけでもない。

ただ私のような、出会う人全員を騙しているような録でもない人間が助けてもらって、いけしゃあしゃあと光の中で生きていって良いのだろうかと思うと動けなかった。

ライトに照らされた彼の髪はキラキラと輝いている。
彼はゼロでもそうじゃなくても光の中で生きていく人だ。
私は、嘘でできた私という存在はきっと
光の中で生きていくことはできない。
光の中で生きたいだなんて、ワガママだ。無理だ。つらい。


また、目を瞑る。
暗闇が私の視界を支配する。
とても、落ち着く。


「ほら、早く手を出せ」
少し乱暴な言葉遣いは安室さんらしくないが、なぜかしっくりきていた。
どことなくスコッチに似ているからだろうか。自然と私の手は彼へ伸びる。

「…っ」
彼のもとへ差し出した手は力強く引かれて私の頬は固さと弾力のある安室さんの胸に当たる。
その勢いのまま抱きかかえられて荷台から出る。
ライトに照らされた荷台はただの荷台で小さくため息をこぼした後、彼の胸元に頬を寄せた。

彼の心臓の音がとても心地よかった。