ペルソナに隠した

「なぁ、本当にやんなくていいのか?」

クロがそう声をかけてもきなこは首を振るだけで、けしてコントローラーに触ろうとしなかった。

「見てるだけで楽しいか?…ならいいんだけどさ」

きなこがゲームに触ったのは最初の1回だけ。驚くほどへたくそだったけど、それなりに楽しそうだった。その後はずっとおれとクロがやってるのを見てた。

「次こそ負けねーからな!」
「おれも、負ける気ない」

絶対にやめてって言ってあるからだと思うけど、クロは少し前みたいにきなこにあれこれ聞かない。例えば、どうしていつもケガをしてるのかとか、どうしてフードをとらないのかとか。
きなこがおれ以上に人目を気にしてる理由は、たしかに気になる。クロの家に来るとき、おれがパーカーを着せなかったらきなこはきっとここに来なかっただろう。今だってフードが取れないようにずっと気にしてる。

「あー!くそ、研磨強すぎんだよ」
「手抜いたら怒るくせに」
「当たり前だろ!ジュースとってくる!」

別にクロが弱いわけじゃない。今日は、おれたちの間に座ってるきなこのことをしきりに気にしてるから、集中できてないだけ。クロがそれに気付いてるかはわかんないけど。

「本当にやらなくていいの?」

ジュースを取りに離れたクロを待つ間、興味深そうな顔でおれの手元やコントローラーを見てるからそう聞いたんだけど、そんないきおいで否定しなくてもいいのにって思うくらいきなこは首を振った。
別に興味を持つこともやりたいと思うことも悪いことじゃないし、むしろおれ達はきなこと一緒にゲームをしたい。それなのに、いったいなにをそんなに気にしてるんだろう。ここにはおれ達しかいないから、なにも気にしなくていいのに。

「きなこ」

でも、それは聞いたらいけないんだと思う。

「クロの髪、どうなってるか知ってる?」

聞いたところで、きなこは答えないだけなんだろうけど、聞かれたという事実がおれ達と距離を作るきっかけになるのは嫌だ。

「あれ、寝癖なんだよ」

だから、おれは聞かない。

「すごいよね」

いつかちゃんと、きなこから話してくれるのを待ってる。

「なー研磨、オレンジなかった」
「別になんでもいいよ」
「きなこは?」
「なんでもいい?…なんでもいいって」

しゃべらないからか、きなこには自己主張なんてものがまったくない。
おれもそんなに激しくない方だけど、きなこのは少しひどすぎる。否定するくらいだから意思を持ってないって訳じゃないと思うけど、まるで自分の意見は必要ないと思ってるみたい。

「きなこ」

名前を呼べば、きょとんとしながら次の言葉を待ってる。

「好きなものある?」

こんな聞き方をしても、きなこからの答えは返ってこない。しゃべらないといけないってこともあるけど、答えることによって自己主張することになるからかもしれない、なんて思った。

「りんごジュースあった」
「ありがと」

きなこはおれと違い両手でコップを受け取ってコップに口をつけると、やっぱりびっくりしたように目を輝かせた。
おれたちがなにをしてもなにをさせても、まるで初めてのような反応をする。それは少し異常に感じるほど。
外れていてほしいと思ったおれの予想は、きっと当たってるんだろうね。

「じゃーな、きなこは車とか気を付けろよ」

それからしばらくして、おれときなこはクロの家から帰る。あんまり暗くなるときなこが危ないから、ある程度の暗さになったら帰ろうとクロと決めた。周りの目から姿を隠そうとするきなこの足で、大体あの川原に着くまでに薄暗くなるようにと。

「また明日」

クロの家とおれの家はそれほど離れてない。だけど、きなこの帰り道におれの家はないから、いつも少しだけ送っていく。その時、自販機の陰に隠れてきなこはおれにパーカーを返してくる。

「ねぇ」

話しかければ、青い目が見上げてくる。少し前までは目も合わせられなかったのに、こうしてしっかり目を見れるようになったのは、多少なりとも仲良くなれたからなのかな。

「なにかあったら教えてね」

おれが言った言葉の意味なんて、きなこにはちっともわからないだろう。
しっかりと縦に頷いたのを見て、頭を撫でる。頭におれの手が乗る直前まで視線が追いかけてくるのは、猫みたいでちょっとかわいい。

「帰り、気を付けてね」

クロと同じようなことを言うと、きなこはどこか嬉しそうに頷いて、小さく手を振ってから背中を向けた。

どんな小さなことでもいい。なにかあったらなんて言ったけど、なにもなくてもいいんだ。ただ、きなこの中で3番目か4番目くらいにおれたちがいたらいいのになって思うんだ。