頑張るって言ったけど!


『ここのところずーっとリナリーのこと独り占めしてるし、リーバーさん達のことも気になる』
「そうね。じゃあ科学班に行きましょうか」

しかぁーし!先に述べたことはすべて本音ではあるけれど、私がリナリーと特訓したくないのもまた真実なのだよ!
今回ばかりは私の願いが天に通じたようだな!ひゃっふぅ!うまくいったぜ!これって新世界の神も夢じゃなくね?

…だめだ、私現在進行形で教団内で最弱のエクソシストだったんだ。

『あれ?これってどうやって元に戻すの?』

どっちの形が元の形かわかんないけど、発動したまんま持ち歩くとか銃刀法違反もいいとこ状態で歩きたくない。なによりでかくて邪魔。

なんとかしてイノセンスに「戻ってー、明日また一緒に頑張ろー」って脳内でめっちゃ話しかけて、なんとか発動を解除して修練場から出た。

私、リナリーから見てアホじゃなかったかな?

『コムイさん喜ぶねー』
「班長たちも喜ぶわよ」
『みんなコーヒーでいいの?』
「基本的にはそうなんだけど、班長だけ違うのよ」
『そうなの!?』
「班長はね、コーヒーよりもコーラとか、炭酸が好きなの」
『へぇー。覚えとこー』

班長は炭酸がお好き。
なんか金髪でそれなりに身長があって仕事めっちゃできるのに、炭酸好きなんて急な少年要素ぶっこまれてこれはこれでギャップを感じる…

『お菓子とかは?』
「たまに持っていくけど、ジェリーに何かあるか聞いてみましょうか」
『賛成ぇー』

なんて話しながらのんびり歩いてたんだけど、突然なにかが私達の進行方向右側面の壁をぶち抜いて出てきた。
ええ、それはもう気持ち良くぶち抜きましたよ。

「え?」
『なにこれ』

なんか見慣れない変なロボが目の前にいる。壁壊したのこいつか。白くてやたらと背が高いそいつは、こちらを見ると動きを止めた。

「…エク…ソ…シスト…」
「?」

エクソシストだからなんなんだ?
リナリーも同じ事を思ったのか、きょとんとしながらちょっと首傾げたりなんかしちゃってかわいい!
…いつも思うんだけどさ、なんでリナリーってこんなにかわいいの?

「…ハ…きょ…か」
『許可?』
「なにかしら」

なんの許可を求めてるのか皆目検討もつかないけど、こいつの得体が知れないことは間違いない。うっかりリナリーに萌えてる場合じゃない!

ちょっとだけ気合いを入れてロボを見たとき、目が光ってビックリした。
いや、それが目かどうかわかんないけど、たぶん目だと思われるレンズだかライトが光ったんだよ。

「…改…造…スベシ!」
『うぎゃ!』

さてこいつはなんなのか、なにをしてくるのか。そう思ってたらいきなり攻撃してきやがった!しかも避けた傍から追撃してくるからたった今来たばかりの道をダッシュで戻る羽目になった。

『なにこれなにこれなにこれ!なんなのこれ?!』
「わからないけど…私達を狙ってるみたいね」

それはわかります。だって攻撃しながら追ってくるもん!なにあれ怖い!

「二手に分かれましょ。追われなかった方がアレを壊す」
『マジか!』

追われなきゃ1回休憩挟んで万々歳だけど、追われたらまた全力鬼ごっこかよ!ノンストップ鬼ごっことか誰得!

「イノセンス発動できたし大丈夫よ」

でも2人で一緒に逃げてたってどうにもならないしなぁ。このまま振り返って攻撃しても悪くはないんだろうけど、ここは二手に別れてから隙をついて攻撃するのがセオリーっぽいもんなぁ。

『おーけー!その話、是非乗らせていただきましょう!』

せっかくだからセオリーに乗っ取ってみますか。大丈夫、これアクマじゃなくてただのロボだし、たぶん死んだりしないでしょ。
…大丈夫だよね?

「じゃあ次の角で」
「了解!」

って言ったけど、次の角までがとにかく長い!
いつも言うけど無駄に広いんだよこの教団!広さを怨んだの生まれて初めてだよ私!あいつ意外と足早いし!ガスガス攻撃してくるし!なんなのあいつ!ロボのくせに眼鏡なんかしやがってー!!

「アリス、また後で会いましょう」
『うん!』

ようやくついた曲がり角。と言ってもT字路なんだけども、とにかく作戦通り私は右に、リナリーは左に曲がった。
これで追われなかった方があいつを壊すんだけど…

「改造!強化!」
『なんでこっちきたー!』

いやっ!だからってリナリーの方に行ってもダメなんだけどっ!だけどだけど!

『いいやあああああ!!』

あれか、私の方が弱いからか!見た目から弱そうだって?だからこっちにきたのか!くそこのやろう!バカにしやがって!すぐにぶっ壊して…

「強化!スベシッ!」

やろうと思ったけど無理でした!だってあいつなんかいっぱい出てる!手がいっぱい出てる!蜘蛛のほうがまだ可愛いげがあると思える気持ちの悪さだよ!
ひーん!あいつ気持ち悪いよー!リナリー早くこいつ壊してー!

「ザコ、強化!」
『るっさいよ!』

んなこたぁ私が1番わかってるっつーの!わざわざ言うな!

「ザコ!ザコ!」
『連呼すんなぁ!』

うっざい!超憎たらしいよあいつ!でも立ち向かえないでただ逃げるばかりの雑魚な私…あれ?なんか目から汗が出てきた…

「アリス、ザコ!」
『名前を呼ぶな!この、ポンコツがあ!』

なんなんだあいつ!ロボのくせに眼鏡なんかしちゃってうっぜぇ!目悪いのかよ!ロボなんだから視力くらい良くしとけよ可哀想だろ!
…あ?眼鏡?

「改造、強化、ザコ強化ー」
『歌うな!』

あの眼鏡、なんかみたことある。巻き毛とセットで!

『おあっぶっ!』

少しの休憩と言う名の移動を挟んだだけでは私の体は回復してくれなかったらしい。私は自分の足に躓いて転びました!
なんで今転んだの!?バカじゃん!雑魚じゃん!

「改造、強化…」

想定外に疲れてたのか足が笑ってうまく立てない。あれだよあれ、生まれたての小鹿ってやつ。
でも変なやつは容赦なく近付いてくるから、座ったままじりじりなんとか後ろに下がる。映画とかドラマなんかで、美少女が殺人犯とかに追い詰められたときにやるあれな。

…これ、客観的にみたら私超弱そうじゃん。これは映画限定だな。実際やると洒落にならん。痛いし汚れるし雑魚っぽいしでいいことなし。

『あっちいけ!しっしっ!』

そんなことを言ってもロボは引く気配を見せない。
貴様は犬か!あっちいけって言ってるんだからじりじり寄ってくるな!怖いって!アクマか!白いアクマか!

「…マッチョニスベシ!」
『絶!対!いやだー!』

急に出てきた右腕らしきものをなんとか避けて走り出す。
相変わらず足は爆笑してるもんだから、まるで海辺でイケメンと戯れる美少女のよう…うふふ、映画のヒロイン気分だわ…って笑えるか!そんな余裕はどこにもない!つーかなんでマッチョ!?

『はひっ…もうやだ!』

走りに走って、ついに吹き抜けまできた。ここから先はみんなの自室がある生活区域になるから、これ以上突っ走るのは自室を破壊するも同然。

「改…造…」

ロボに生活区域だからおとなしくしようなんて考えはまったくないだろう。そんな考えが少しでもあれば、ロボの後ろに見える道が瓦礫の山になってるわけがない。

考えるまでもなく、こいつぁ腹くくるしかない状況ってやつだな。
今こいつを止められるのは、目の前にいる私だけ。雑魚だとか怖いとか、そんなもんは丸めて吹き抜けの下に向かってぶん投げとけ。大丈夫、私は死なない。絶対生きる。

…よし。私はやります!

『イノセンス発動!』

修練場で発動した時よりもずっとスムーズに発動できた血染ノ乙女をみて、ロボは一瞬だけ動きを止めた。
まさか反撃してくるなんて思ってなかったんだろうな。知ってるか?鼠だって追い詰められたら猫を噛むんだぜ?

「要強化」

イノセンスを発動したとは言え、私自身が弱いことにかわりないと判断を下したらしいロボは、正面から走ってくる。

私だっていつまでも雑魚でいるつもりはない。その為に日夜トレーニングやら修練を重ねてるんだ。イノセンスは今日初めて発動できたけど、これからもっと知っていくんだよ。
そんなタイミングで出てきたお前は運が悪い!人間相手じゃないからうっかり首を飛ばしたとしてもなにも怖くないってことだ!要するに、ロボであるお前は練習相手に持ってこいなのだよ!

私は突っ込んでくるロボに向かって、嬉々として血染ノ乙女を振り上げた。

「待って!」
『は?ぁぐっ!』

急なストップに反応が遅れて、無防備極まりない状態でボディブローを食らった。金属で殴られればそりゃあダメージもそれなりにでかいわけで。

『ごほっ…おい…』

めっちゃ痛いんですよ。
誰だよ今止めたやつ!モロに攻撃くらったじゃんか!これご飯食べた後だったら絶対吐いてたからな!

「アリスー!大丈夫かぁ?!」
「なに止めてんスか室長!」
「イノセンス発動できたのか!」
「アリスちゃん、その子を壊さないで!」
「兄さん離して!」

吹き抜けの向こう側には妙にボロボロになったコムイさんと、コムイさんに腕を掴まれて抵抗してるリナリーと、コムイさんにぶら下がる数人の科学班の人がいた。
それを見た私の頭の中で、全てが繋がった気がした。