▼ 悲観的になるよ、こんな月じゃあね


「おつかれっしたー!」

青城との試合を終えて、学校の体育館にモップをかけて漸く帰れる。
疲れた、早く帰りたい。日向なんてモップかけながら寝てたし。これだから本能で生きてる系の奴は見ててあきない。前提条件で、僕に関わってこない限りってのが大事だけど。

「ツッキーまって!」

いつもの分かれ道。話し込んでる山口を置いて進めば、焦ったように追いかけてくる。

「別に話しててもいいのに」
「いや、あの人について日向にちょっと聞いてただけだから」

体育館で寝ながらモップかけてたくせに、あの人の話になったら途端に様子がおかしくなる。

「先輩なんだっけ?」

ベンチの人なんてよく見てないけど、ウチの学校にいたら清水先輩並みの噂の人物にはなってただろう。

「中学の時の先輩だって。なんか練習に付き合ってもらってたとか」

まぁ、そういう人はどこにいても話のネタにされるんだろうけど。

「へぇ、あんな人でもバレーできるんだ」
「できるって言うか、見てもらってた?みたい」

だろうね。あの人がバレーしてるところなんてまったく想像できないから。

「そ」

人は見た目じゃないとか言うけど、見た目から大抵のことはわかる。少なくとも、あの人がどんな人なのかは、なんとなく。

「清水先輩にあんなにキョドってるくせに、あんな綺麗な先輩がいるとは思わなかったよねー」
「まぁね」
「でも、なんか不思議な人だったね」
「そう?」
「俺ベンチだったからちょいちょいあの人のこと見てたんだけど、なんか…」

詰まった言葉に山口を見れば、なにか考えてるらしかった。

「なに?なんか思ったなら言えば?」
「いや、何も知らないくせにこんなこと言うのも失礼かなーと思って」
「別に本人いないし、いいんじゃない?僕も思ったことくらいあるし」
「あの人に?」
「ただの印象だけどね」

第一印象くらい持ったって、それがどんなものだろうと怒られやしない。どう足掻いても第一印象ってやつは与えられるものなんだから。

「へぇ。ツッキーはなんて思ったの?」
「その前に山口は?」
「俺?俺はなんとなくだけど、寂しそうな人だなぁって」

なるほど。もしかしたらそれ系の印象がほとんどなのかな。

「ね、ね、ツッキーは?」
「僕もだいたい同じ。冬の空気みたいな人だなと思った」
「え、めっちゃかっこいい」
「は?どの辺が?」
「冬の空気っていう表現がかっこいい」

それなりに山口との付き合いは長いけど、いまだに山口の感覚がよくわからない。

「あー、でもそっか。冬ってなんとなく寂しい雰囲気だもんね」
「いや、何て言うかさ、あの人の場合、寂しいって言うより止まってる感じがしたんだよね」
「…なにが?」
「雪が降ると音がなくなるデショ?その瞬間って時間が止まってるような感じがするじゃない。その時の感じが似合うなって」

言ってから気付いた。僕もらしくないことを考えていたらしい。日向の知り合いだったとしても、僕にとっては赤の他人なんだから、気にする必要なんてない。それなのにどうしてそんなことを思ったのか。

「へぇ…ツッキー試合に出てたのによく見てるね」
「別に見てない」

体育館の中で、あまりにひとりだけ違う空気感だったからそう思っただけ。

「日向さ、あの人となに話してたんだろうね」
「どうでもいいよ」
「でもさ、日向がバレー以外のこと話せるのか気にならない?」
「別に」

これと言った興味もないし、たぶん一生僕と関わり合いにならない人。それは山口にも言えるだろう。

「あんな綺麗な人と話せるとかいーなー!」
「清水先輩と話せば?」
「ええ!?無理だよ!」


  
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