▼ 名前を呼んで
和泉さんからは小説を借りて、俺はバレーについて教えるようになってからまだ日は浅い。
「調べたんですが、歴史としてはあまり長くないものだったんですね」
「そうなの?」
「1895年に誰でも気軽にできるようにと生まれたそうです」
「へぇー」
練習とかがある俺は読むペースがけして早くないからなかなか進まない。だけど和泉さんは急かしたりすることもなく、興味を持ったらしいバレーについて調べて来ることが多くなった。
それが嬉しい。岩ちゃんたちに分かりやすいとか言われたから、たぶん和泉さんにも気付かれてると思う。
それでいいけどね。俺自身のことじゃないとはいえ、やっと和泉さんが興味を持ってくれたんだから嬉しくないわけがない。
「あと、日本では元々9人制のバレーボールが主流だったそうですね。1947年に6人制が国際ルールとなったので、その頃から現在の人数になったとか」
和泉さんの性格なんだろうけど、俺の知らないところまで調べてくるからホントびっくりする。起源知ってるパターンだよ、これ。
「そう言えば、及川は時間差攻撃と言うのはできますか?」
「え?うーん、俺はセッターだから直接する機会はあんまりないけど、練習すればできるよ」
完全になくなったものではないけど、最近はあんまりやってる人見なくなったからなぁ。公式戦で誰かやってたかな。
「あと回転レシーブってなんですか?」
「それなら烏野のリベロくんができるよ」
「今度観察してみます」
あんまり観察してほしくないけど、和泉さんは単純にバレーを知りたいって気持ちから言ってるだけだもんね。
烏野なんかより俺のこと見てって言って、反応が冷たかったら悲しくなるから今言うのはやめとこう。
「回数とかはわかった?」
「3回で返すのは理解しました。でもプレー中ボールがネットに触れた際は4回になるのが、文字だけだと理解できません」
どんなに調べても、実際に見たりやったりしないとわからないことは多いと思う。文字だけだとイメージするしかないし、和泉さんはバレー自体しっかり見たことがないはずだから余計そう感じるんだろう。
「それも実際その状況を観た方が分かりやすいかもね」
そのくらいの状況なら家のDVDでも確認とれるかな。探してみよう。
ああ、プレーヤーかパソコンが家にあるか確認しないと貸すのもできないか。もしなかったらどうしようかな。
「でも、ひとりで見てもわからない部分が出てきます。その都度調べることも確認することも正直難しいです。なので、もし及川さえよかったら一緒に観たいと思うのですが…」
そう考えてたのに、和泉さんの言葉に一瞬思考が止まった。
「難しい、ですよね」
しゅんとしてるのかわいい!!
そうじゃなくて!一緒にってどういうこと?どっちかの家で一緒に観るってこと?え、なにそれめっちゃ緊張するんだけど!
「そんなことないよ!和泉さんのお願いなら一緒に観よう!」
和泉さんの家に行くとしたら、なんかお菓子持っていかなきゃだよね。第一印象は大事だもんね!安心して和泉さんのこと任せてもらえるようにちゃんとしなきゃ!
「じゃあ、月曜に観れそうな試合探しておきます」
…あれ?
「もしかして生で観る…?」
「その方がいいですよね」
うん、それはそうなんだけどさ。
「たぶん録画したものを持ってると思いますが、及川はもう観たものですよね?せっかく一緒に観るなら、お互い楽しい方がいいです」
え。なにそれ。いきなりデレられても及川さんついていけない。
「でも解説しながらだと試合進んじゃうよ?それだとわかんなくならない?録画してるやつならその都度止めて説明できるし、そっちの方がよくない?」
「…それもそうですね」
嬉しいけどね、まだ塩対応くらいでいいよ。そうじゃないと俺がいろいろ持たない。
「では、まずは録画してるものの確認からですね」
「うん」
「放課後、視聴覚のパソコンが使えるように交渉してきます」
「学校で見るの?」
「その方が労力が少なくていいと思いますが」
そっか。和泉さんの家遠いんだった。
「それもそうだね」
「いつがいいですか?」
「早めに知りたいよね?それなら次の月曜にしよっか」
「ではそうします」
でも月曜に校内で堂々とデートできるとかめっちゃ嬉しい。しかも生で試合を観に行くこと前提での話。
「あ、そろそろ戻るね」
「ええ。結果はまた連絡します」
「うん」
「月曜はよろしくお願いします、とおる」
…え?!
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