▼ 廃墟に咲く花
「及川ー」
「なにー?」
「なんか今日テンション高くねぇ?」
今日と言わず、最近の及川は妙にテンションが高いときがある。
弁当に好きなもんが入ってたのかとも思うが、朝練の時にテンション高いと弁当は関係ない。じゃあ岩泉に殴られなかったのかと言うと、そんなこともまったくない。今日も岩泉のフルスイングが光ってた。
「えー?聞きたい?聞きたい?」
「聞きたくなーい」
「えーっとねー」
聞きたくないっつったろ!
女子みたいに語尾を伸ばしながら言われたことは、俺としてはかなりビビった内容だった。
「好きな子がいるんだー」
耳を疑うとはこの事だろう。
「は?好きな昆布?」
「好きな子!俺の好きな子を勝手に海草にしないでよ!」
「いや、だって及川、お前ちゃんと女子好きだったの?」
「好きだよ!なんなのみんな?!」
まぁ同級生からモテるかと言われたらそれもまったくなんだけど、そうか。
「告られたら「バレーに集中したい」っつって断ってたのは嘘だったってこと?」
「嘘じゃないけど、それだけじゃなかったってとこかな」
「うーわ。悪い男ー」
「それに、その子に迷惑かけるわけにいかないでしょ?」
それが告白してきた子を指すのか好きな子を指すのかは聞かずともわかる。
「なに?マジなわけ?」
「これがマジじゃなかったら言うわけないでしょー」
「えー、なに?いつから?」
及川の恋愛話なんて噂ばかりで、本人から聞くのは初めてだった。だから俺も調子に乗ったところはある。
あとで面倒なことになるなんて、このときはこれっぽっちも思わなかった。
「えー?1年の夏くらいかなー」
「なっが!!」
「みんなそこは気になるんだねー」
「え、他誰に聞かれたの?」
「岩ちゃん」
え。なに、岩泉にまでこの話したわけ?こいつマジ勇者だわ。
「ちなみに誰?」
「たぶんマッキーも知ってると思うよ。和泉さんって知ってる?」
俺が知ってる和泉は1人しかいない。
「長い黒髪で、あんまり笑ったりしてるのは見ないんだけど、綺麗な子なんだ」
「ぼっちの和泉?」
「もー。マッキー言い方」
どうやら俺が知ってる和泉と同一人物らしい。
「だってあいつクラスでいつも1人だったし」
「え。マッキー同じクラスだったの?」
「去年な。で?なんで和泉なわけ?」
美人な方だとは思う。だけどそれをマイナスにするほど和泉は冷たい。俺の印象はそんなもん。ほとんど話したことないからよくわかんないだけかも知れねぇけど、必要最低限しか話さないし笑わない。話しかけても1言で切り返される。
たぶんだけど、和泉は意図的に距離を置いてる。そのせいかクラスメイトはいても友達はいない。そんなんで友達いるとか言われたら、マンガでもねぇのにぜってー嘘だと思うわ。
「わかんない」
「お前のファンのがかわいくね?」
「確かにかわいい子多いけど、俺が気になってるのは和泉さんだけなんだ」
及川のそれは、きっと恋なんかじゃない。もっと純粋な興味。及川の身近にいないタイプだから興味が沸いただけ。
「あっそ」
「マッキーも応援してねっ」
「気が向いたらなー」
まぁ、だからなんだって話だ。及川がフラれようが和泉がどうにかなろうが俺には関係ない。バレーに問題がなければそれでいい。
できれば、及川に彼女ができるとかムカつくから、間違えても和泉と及川がうまくいくなんてことがなければいいとは思う。
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