仮入部最後の日

"王様"
そう言われてようやく思い出した。黒いジャージの人達と見たあの試合。たった今まで少しも思いだせなかったのに、驚くほど鮮明に記憶が蘇る。
勝つことに執着していた北一のセッター。初心者の集まりみたいな雪中の1番。

はっきりと思い出した頭で王様を見ると、王様の雰囲気が変わってた。


「あ、本当だ」
「ぁあ?!」
「"コート上の王様"って呼ばれるとキレるって噂」
「ね、ねぇ忠くん」
「ん?大丈夫だよ」
「そうじゃなくて…」


少しだけ忠くんに寄って、学ランの裾を掴む。
忠くんはなにか勘違いしたのか、少し笑って頭を撫でてくれた。


「いいじゃん王様。カッコイイじゃん。すごくぴったりだと思うよ?"王様"!」
「蛍ちゃん、いつもと違う…よね?」
「…そうだね」
「なんなんだテメェ」


今思うと、この2人を見つけたときから少し変だった。いつもなら偶然見つけたとしても無視するのに、わざわざ邪魔して嫌みを言って。


「県予選、決勝。見たよ」


仕返しでもない限り、こんなこと滅多にないのに。


「あんな自己チュートス、よく他の連中我慢してたよねぇ。僕ならムリ。あ!我慢できなかったから、ああなったのか」


まるで、怒らせるために近付いたみたい。


「テメェ…!」
「けっ!」
「ツッキー!」


忠くんが一歩前に出る。たぶん王様と掴み合いになってるのかもしれない。蛍ちゃんの学ランが不自然な吊り方をしてるから。
もしも何か起きるようなことがあったら、蛍ちゃんのことが大好きな忠くんはなにか起こる前に止めに入るだろうと思ってた。でも、忠くんは1歩踏み出しただけでそれ以上は動かなかった。
大丈夫だと判断したのか、それとも私がいるからか。

もし蛍ちゃんが殴られたりしたらどうしよう。
私がいなかったら忠くんが仲裁に入って、きっと穏便に済んだはず。私がいたから、忠くんが私に気を使ってここにいてくれてるのなら、それで蛍ちゃんが怪我をしたら、それは私のせいだ。


「…切り上げるぞ」


でも、そんな心配は杞憂だったのか。王様は蛍ちゃんから離れていった。


「ええっ!?おいっ」


雪中の1番だった子も緊張が溶けたのか拍子抜けしたのか、はたまた予想に反したのか。蛍ちゃんに思いっきり背中を向けてしまっている。


「逃げんのぉ?王様も大したことないね〜。明日の試合も王様相手に勝っちゃったりしてー」
「けっ蛍ちゃ…!」


それ以上はまずい。そう思って止めようとした時だった。雪中1番が蛍ちゃんの弄んでいたボールを跳んで取り返した。

少し蛍ちゃんと距離はあったものの、真横で跳ばれるとホントびっくり。忠くんが引き寄せてくれなかったら雪中1番に飛ばされてたかもしれない。蛍ちゃんもびっくりしたのか、雪中1番と少し距離を取ってた。

結果私と忠くんとは少し離れたことになる。おかげで視界良好。王様がよく見えます。


「王様王様ってうるせえ!おれも居る!!試合でその頭の上、打ち抜いてやる!」
「…は?」
「なんだコラぁ…やんのかあこんにゃろぉぉ」


…うん。蛍ちゃんすっごい顔したね。あの高さからあんな顔で見下ろされたら怖いよね。怒ってはないけど、すっごいイライラしてるのを隠してる時に1回だけ見たよ。
忠くんがさすがにその顔はやめなよって言ってた。


「はぁ…そんな気張んないでさ、明るく楽しく、ほどほどにやろうよ。たかが部活なんだからさ」
「たかがってなんだ!」


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