松川

「んー…」
「こらこら、ちょっと大人しくしてなさいな」
「今いい場所探してるの」

食べ終わった弁当箱を横に避けて、鳴子を膝に横抱きに乗せる。そうすると鳴子は必ずモゾモゾと動いて、1番落ち着く位置を探してる。その姿はさながら猫のようで。

「もー、頭やめてー」
「かわいい彼女の頭を撫でたらいけないんですかー?」
「今はイヤー」

頭を胸に押し付けて、逃げるのか甘えてるのかわかんないけど、かわいいからよし。

「イイトコ見つかった?」
「んー…」

小さい手で俺の胸の辺りを押して納得のいくポジションを見つけると、ようやく大人しくなる。

「今日のポジションは見つかりましたか?」
「うん」
「ならいいんだけど」

頭を撫でるとそのまま掌に頭を押し付けられる。体重は全部俺に預けて、このまま手足を折り畳んだら後ろからは見えなくなるだろう。実際後ろは壁だから見えなくなるなんてないけど。

「寝る?」

膝の上で緩く握られた両手が一瞬握られた後、ゆっくり開いていく。
鳴子が寝る前の癖。

「んーん、いっせが重くなっちゃうから寝ない」
「鳴子が寝ても重くないよ」
「いっせがつまんなくなっちゃう」
「鳴子見てるのに忙しいよ」
「お話しできなくなる」
「起きてからでもできるでしょ」

いつもよりちょっと幼い話し方。
こりゃ確実に寝るな。

「授業までには起こすから、ちょっと寝たら?」
「んー…」
「授業中に寝るよりいいんじゃないの?」
「別に眠くならないよ、たぶん」
「それでもたぶんなんでしょ?」
「いっせがいるとね、安心するから眠くなるの」

あーもー。なんでうちの子はこう、かわいいことを言うかね。
彼氏としては信頼してもらってることを喜ぶべきなんだろうけど、男としては喜んでいいのか悪いのか。かわいいことに間違いはないから言われて困るなんてことはないけど。

「だからね、授業中は寝ないよ」

でもね。お前が眠くなるとこんな猫みたいになるなんて、俺以外は知らなくていい。

鳴子と同じクラスになれなかったのは高校生活での心残りだけど、もしも鳴子と同じクラスで、もしもとなりの席にでもなったら鳴子は寝るんだろうか。それで、もしも鳴子の寝顔を他の男が見る事があるなんて考えただけてムカつく。
そう考えたら、案外違うクラスでよかったのかもしれない。

「鳴子」

返事がないところを見ると、もう寝てるんだろう。
膝にブレザーをかけてやって、その細い肩を抱き寄せる。身じろぎこそするが、相変わらず意識は夢の中。

さて、せっかくだから一緒に昼寝でもしますかね。

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