牛島

我が校の誇るバレー部には、神童がいます。

「ナァーイスキー!牛島!」

世界ユースにも選ばれた、白鳥沢の牛島若利。彼を主軸としたチームは県内敵なし。間違いなく全国でも通用するチームだと、自信をもって言える。
だけど、1つだけ不安なことがあります。

「よし、10分休憩」

それは、来年のこと。

「お疲れさまです」
「…どうした?」
「いえ、今日も素晴らしく調子がいいですね」

まずは目の前のIHと、それに続く春高だと言うのに、今から来年の心配だなんて気が早すぎるのかもしれません。

「そうだな。今日は特に調子が良い」
「それはなによりです」

五色くんが弱いとか物足りないとかではないんです。五色くんだって間違いなく全国区のスパイカーですから。
ただ、圧倒的な力を見せつける牛島さんを間近で見てしまうと、どうしても一種の物足りなさを感じてしまう。

「柏手はあまり良くなさそうだな」
「そうですか?」
「なにか気になることでもあるのか?」
「春高に出場した暁には、お土産をどうしようかと思いまして」
「それはずいぶんと気が早いな」

我が校では有名な牛島さん。厳格なお家の生まれだからか、それともただのバレーバカなのか。ド天然であることも有名なのです。
おかげで私はうまく誤魔化せるわけですけど。

「あまり根を詰めるな」
「はい」
「優秀なマネージャーが倒れては部が回らなくなるからな」

たいしたことはなにもしていないと思うのですが、牛島さん曰く、私は優秀らしいです。意外すぎて初めて言われたときは絶句しました。
多少不便はあると思いますが、私くらいいなくても回りそうですけどね。

話はそれましたが、牛島さんに尽くす白布も不安ではあります。牛島さんがいなくなったらどうするんですかね。五色くんにつくすようになるんですかね?それはそれで尻の軽い女のようで見ていて複雑な気持ちになりますけど。

「悩みがあるなら相談するといい」
「牛島さんにですか?」
「いや、相手は誰でもいいが、悩み続けても答えが出ないなら助言を受けることも大切だろう?」

まさか相談なんて1度もしたことが無さそうな人からそんな言葉を賜るとは…

「どうした?」
「いえ、そうですね。では相談させていただきます」
「そうか」
「全国に連れていってくれますか?」
「当然だろう」

相談じゃないことに気付いているのかいないのか。当たり前だと言わんばかりの返事に笑みがこぼれる。
自惚れるわけでもなく己の力を過信するわけでもない。ただ、愚直なまでに頂点に立てると信じてる。それだけ。

「期待してますね」
「必ず全国へ連れていく」

こんな人だから全国区にまで成りえたのだろうか。

「若利くん、柏手ちゃんとなに話してるのー?」
「必ず全国に連れていくと話していた」
「なにそれ」
「勝つのは俺たちなんだから間違えてないだろう?」
「まーそーだけどさぁ、それ他の人が聞いたら怒りそー」

天童さんの言葉に牛島さんは不思議そうに首をかしげるだけ。当たり前だ。この人は負けるなんて微塵にも思ってないんだから。
負けるだなんて、一瞬でも考えないんだから

「ほら、そろそろ休憩終わりますよ」
「そうか」
「じゃーもーひとふんばりしよーかなー」
「頑張ってくださいね」

そしてそれを私も疑ったりしないのだから、それなりに盲目なんだと思う。けしてバカだなんて思わないけど。

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